“操り師”と“影渡り”が引き返したのは、用意しておいた第二の結界の中であった。あるのは三陸海岸沖の海底。“破壊するもの”が眠る場所の近くだ。
「どう? 何か分かった?」
問う“影渡り”に、“操り師”は「はい」と頷く。
「やっぱり、この少年は殺さなくて正解でした」
見下ろす彼の足元には、元のサイズに戻った広哉が横たわっていた。もっともその身は、変わらず赤い石に閉じ込められており、目も閉じられたままだ。
「この少年の中には、私達が予想していた以上の力が秘められていました。そしてそれが真に解放されるのは、彼の命が失われるときなのですよ。効果範囲は、この島国を完全に覆うほど」
「…………」
「迂闊に殺せば、私達も道連れというわけです」
「……まったく」
“影渡り”はうんざりと吐き捨てた。
「何だってそんな人間が出てきたのよ」
「私の推測で良ければお話ししますが?」
「もったいつけずに早く話しなさい」
「……おそらくは世界そのものが持つ自衛能力でしょう。この少年が生まれたのは、私が記憶と力を取り戻した時期と一致しています。人の身体と融合した私の存在を、世界が異物とみなし、倒すための存在を作り出したのだと思いますよ」
「そんな事ありえるわけ? あんたの説明だと、世界そのものが意志を持ってるみたいじゃない」
「ええ、そうです。烈風神や大炎帝も、人間を中に入れないと、この世界で力を発揮できないですよね。私達にしても、元々は同じようなものです。意志といっていいかどうかは微妙ですが、異世界の存在を世界が排除しようとしているのは確かでしょうね」
聞くうちに“影渡り”の表情はみるみる険しくなっていった。
「そんな勝手な話ってある!? あたしらは一方的に召喚されて、この地の人間の皆殺しを押し付けられた! 挙句、世界そのものから邪魔者扱いされちゃ納得できないわよ!」
「まあまあ。話は最後まで聞いてくださいって。確かに世界は私達を排除しようとしている。けれど同時に受け入れようともしているんです」
「…………。もったいつけるのはやめろと言ったでしょ」
「人間の身体と同化した事で、私もあなたも強くなりました。これは私達が異世界の者という制限から解放され、自由に能力を使えるようになった証拠と言えます。排除と受け入れ、二種類の力が働いている以上、どう転ぶかはまだ分かりませんよ」
「……それはありがたい話ね。涙が出そうだわ」
「……でしょう?」
微笑む“操り師”と眉を吊り上げる“影渡り”。
両者の視線がぶつかり合った。
やがて、先に目を逸らしたのは“影渡り”の方だった。
「……分かったわよ。結局、あたしにはこの地の人間への憎しみが刷り込まれてるんだもの。やるしかないのよね」