ゴン! ゴン!
ロックの掛かったドアが、乱暴に叩かれる。
その部屋の奥で、綾は恐怖に耐えながら、広哉を抱きしめていた。腕の内から震えは伝わってこない。代わりに全身が硬く強張っている。広哉もまた、力を入れて耐えているのだろう。
綾達の前では、二人のIDM隊員が拳銃を構え、いずれドアを破壊するであろう襲撃者に備えている。
「大丈夫です」
「お二人は必ず自分達が護ります」
緊張した声で隊員二人が言う。
綾と広哉も頷くしかなかった。
警報に驚き、測定室で成り行きを見守っているうちに、綾達は逃げる機会を失ってしまったのである。
ゴン! ゴォォォンッ!
ついにドアが蹴り破られた。倒れされたドアは、勢い余って床の上を滑る。
室内の照明は消してあったから、廊下の光が眩しかった。逆光の中に立っているのは、屈強な体付きの若者――鬼王であった。
「止まれ!」
「それ以上近づくなら発砲する!」
IDM隊員二人が警告を発する。
だが、鬼王はそれを無視して、一歩踏み出した。
その瞬間、銃は火を噴いた。
敵であっても、射殺される姿など見たくない。綾はとっさに広哉の目を手で塞いで、自分も顔を背けた。
だがその耳を、鬼王の声が打つ。
「フン」
(……えっ?)
綾は目を開け、そちらを見て……目を疑った。
鬼王は微動だにしていなかったのである。
IDM隊員達は綾以上にショックを受けているようだった。
第二射さえ忘れ、銃口も敵から逸れ気味になる。
「人間も昔よりはマシな武器を使うようになったな」
鬼王の呟き。
それがIDM隊員を現実に引き戻した。
「くっ!」
隊員二人は立て続けに引鉄を引く。
だが、放たれた弾丸は、鬼王の皮膚に赤い筋を作る程度で、後は上滑りするのみだった。弾かれたものが、室内の壁に痕を穿つ。
「無駄だ。お前達は……邪魔だな」
鬼王はスッと静かに右手を挙げた。
そこから目に見えない衝撃波が飛ぶ。
「ぐっ!」「うっ!」
「きゃあっ!」
重い一撃をまともに受けて、鬼王の正面にいた四人はまとめて吹き飛ばされた。
「あうっ!」
壁に叩きつけられて、綾は激痛に頭がかきまわされる。
「うっ……ううっ……」
立ちあがらないと。そう思うのに、壁に寄りかかって座り込むような格好のまま、綾は指先を動かす事さえできなくなっていた。
「広哉……様……」
かすむ目を上げると、倒れた広哉の傍らに、鬼王が悠然と歩み寄っていた。
「やめて……広哉様に……」
彼の手には赤い石が握られていた。いったいどうしようというのか。分からないが、いい事であるはずがない。
「やめ……て……くだ……」
石が輝く。
「やめ……」
無理に身体を動かそうとした綾は、ズルズルと背中を壁で滑らせて、横倒れになった。
石から光線が放たれて、広哉を包み込む。そしてすぐ逆回転をするように石へ戻っていく。
たったそれだけの事だ。だが光が失せると、後には何も残っていなかった。
広哉も……消えうせていた。
跡形もなく。
まるでいた事の方が嘘のように。
「う……あ……ああ……」
自分は広哉を護れなかった。そこから生まれる恐怖も絶望も忘れるほどの虚無感。
急に綾は視界が滲んできた。それが自分の涙によるのだとさえ、綾は気付けなかった。目が勝手に涙を流し、うつろな表情を濡らしていく。鬼王が己に視線を転じ、近づいてきても、綾はぼんやりとそれを見つめているだけだった。
鬼王は言った。
「お前が烈風神の新しい乗り手だな。俺に付いてこい」
彼の太い腕が脱力した綾を、荒々しく引き立てた。