『何……!』
 突然、鬼王の眼前に闇の魔方陣が現れた。
 それが何かを烈風神も大炎帝もすでに見て知っている。果たして空中には“影渡り”が現れた。
「あの人……!」
「あいつは……!」
 どういうわけか、綾だけでなく、広哉も驚きの声を上げる。
だが“影渡り”の方は滞空したまま、烈風神と大炎帝を半ば無視して、鬼王を一瞥した。
「まったく。どうせならもっと上手くやってほしかったわね」
 彼女の指が新たな魔方陣を描く。
「ま、いいわ。最低限はやってくれたわけだしね」
 新たな空間の揺らぎが、鬼王の身体を飲み込み始める。
「まっ、待ってください! 広哉様を連れて行かないで!」
 綾は悲痛な声を上げた。
 だが無情にも、鬼王の身体が消滅するのには瞬きするほどの時間もかからなかった。
「いやっ……。いや……広哉……様……」
「さて」
 そこでようやく“影渡り”は烈風神達に目を転じた。
「じゃあね」
 あっさりと言って、自分もまた時空の狭間へと入り込む。
 後には大炎帝と満身創痍の烈風神だけが残された。
「あ……っ」
 プツン、と綾の中で張り詰めていたものが切れた。
――綾? どうした!?――
「広哉様……ごめんなさい……」
 もう烈風神の声も聞こえない。
 意識を失い、綾は烈風神の中で崩れ落ちたのだった。



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