「よし、落とせ」
 S−3号が消息を絶った現場の上空に着いた小早川巧は、飛行ユニット内の相良京一に言った。
「はいっ! 先輩!」
 京一の操作によって、大炎帝と飛行ユニットをつなぐフックが外れる。
 タンク形態の大炎帝は、そのまま海面へと降下した。機体には、すでに水中探査用のユニットを装備してある。スクリューを回転させて、大炎帝は潜航を開始した。
 霊力センサーを確認しつつ、巧は日の光の届かない周囲をライトでも照らす。しかし、センサーにもモニターにも、これといって引っ掛かるものはなかった。時折、驚いた魚の群れが鱗を光らせ、身を翻らせるだけだ。
「……決めた」
――何を?――
「晩飯は焼き魚だ」
――…………――
 さすがに呆れたように大炎帝は沈黙する。
「しょうがないだろう。俺は昼飯抜きなんだから。さて、もう少し潜ってみるか」
――了解――
 一定の範囲内を旋回しながら、注意深く進んでいく。
 それでも何も見付けられず、とうとう大炎帝は海底まで到達してしまった。
 仕方なく移動の手段をスクリューからキャタピラに替えて、なおも探索を続ける。
「ん?」
 十分近くかけて、ようやくセンサーが何かを捉えた。といっても、それは大炎帝の力を借りた高性能なものでなければ感知出来ない、ひどく微かな反応であった。
「これは……」
――何かの痕跡のようだね――
 スピーカーから大炎帝が推測を伝えてくる。
「痕跡?」
――ああ、この感じだと、霊力を発していた本体はもうここに残っていないようだ――
「そうか……。S−3号に見付かったんで、さっさと逃げ出したのかもな。けど、何か手がかりは残っているかもしれない。もう少し探してみよ……」
 そこへ巧の言葉を遮るように、京一の通信が届いた。厚い水の壁を隔ててなお、はっきりと聞き取れるその内容は――。
「大変です、先輩! 基地が何者かに襲われているそうです! 早く戻ってきてください!」
「……しまった!」
 巧は叫んだ。操縦桿を握る手に力が篭る。
 完全に敵の手にはまってしまった。
 ヤツらはこの場所を引き払った後、最後に大炎帝を基地から引き離す囮として使ったのだ。
「大炎帝! 急速浮上だ!」
――了解!――



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