「いやはや。さすが精鋭揃いの地下設備。思いの他、手ごわいですね」
 T字路を形作る壁の角に身を潜ませて、"操り師"はため息をついた。
 通路を挟んだ向こうでは、"影渡り"も同じような姿勢で屈んでいる。
「人間のくせにここまでてこずらせてくれるなんてね」
 二人の間では無数の弾丸が飛んでいた。通路の向こうから、IDM所属の小隊が一斉に撃ってきているのだ。生身の人間が壁から身を乗り出せば、一瞬で穴だらけにされるだろう。特殊な力を持つ"操り師"と"影渡り"であっても、ただではすむまい。
「あたしが転移できれば、こんな連中、一瞬で潰せるのに」
 だが、基地内にはジャミング機能があり、"影渡り"のように複雑な能力の成功率は五分五分だ。下手をすれば、壁の中に出かねない。
「……鬼王とかいう男、殺されたりしないでしょうね」
「大丈夫でしょう。あれでも烈風神がてこずるぐらい強いんですから。私達は騒ぎを起こす事に専念しましょう」
 そう言って"操り師"は静かに目を閉じた。何かを念じる。
「…………」
 その直後、IDM隊員の方向で変化が起きた。
「な、何を……!」
「落ち付け! やめるんだ!」
 争うような怒声と銃声、だが弾丸は"影渡り"達には飛んでこない。向こうで同士討ちが始まったのである。
「……これが基地内の様子を調べられた理由?」
「はい。隊員の何人かに、操る種を仕込んでおきました。ガードが固くて苦労しましたよ」
 やがて隊員達のいた方からは何も聞こえなくなった。
 角の向こうでどんな惨劇が展開されたのか。
「さあ、行きましょう」
「そうね」
"操り師"も"影渡り"も気に留めてなどいないようであった。



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