授業中、広哉はぼんやりと担任の近藤和恵が黒板に計算式を書いていくのを眺めていた。和恵は新しい事を色々教えてくれているが、今の広哉の頭には、それがどうにも入ってこない。
 自分の秘密が気になってしょうがないのだ。
「う〜ん」思わず唸ってしまう。
 そんな彼の耳に、不意に大声が飛び込んできた。
「あれっ、何だ!?」
「え!?」
 ドキリとしてそちらを見ると、窓際の席にいた友人が、半ば立ち上がりながら、教室の外を見上げていた。
「なになに?」「どうしたの?」
 好奇心の塊のような少年少女達は、口々に騒ぎながら、一斉に窓際へ集まる。
 一呼吸か二呼吸ほど遅れて、広哉もそれに続いた。
「こ、こら、みんなっ、席に付きなさい!」
 慌てたように和恵は言う。だが、その和恵自身も、何が見えるのかというように校庭へ身を乗り出した。
 直後、和恵の顔が凍り付く。
 学校の上空を、巨大な鳥型の怪物が旋回していたのだ。それも十羽近い数が。和恵が知るはずもなかったが、それは先日、大炎帝が次元の狭間で戦ったのと同種の"異形"であった。
 一方、生徒達は呑気なものだった。
「あれ、この間学校の近くに出た怪獣の仲間じゃないか?」「あ、そうかもっ」「あの巨大ロボット、見られるかな?」
 何人か怖がっている者もいたが、大半はそんなやりとりをしている。今の所、"異形"に襲ってくる様子はない。暴れているのもテレビでしか見ていないから、凶悪な怪物という意識もないのだ。
 しかし、広哉は鼓動が早くなるのを感じていた。
(…………やっぱり、そうなんだ)
 間違いなく"異形"の目的は自分だ。
(……どうしよう……?)
"異形"そのものは怖くなかった。烈風神が来てくれると確信しているから。まして綾と烈風神が負けるなど考えもしない。だが、自らへの不信はますます募っていくのであった。



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