「子供ってのは能天気よね」
 マンションの屋上に立って学校を見ながら、一人の女性が薄く笑った。彼女は大炎帝を次元の狭間へ引き込んだ張本人であり、その隣には牧師服の青年もいる。
 二人の目は、校舎の全ての窓で鈴なりになっている生徒達に向けられていた。
「でも、おかげで標的も出てきてくれますよ」
「そうね」
 並の人間であれば、裸眼で個人の見分けをつけるのは困難な距離だったが、彼女達は不自由なく広哉を見つけ出している。
「それにしてもまだるっこしいわよね。あたし達が出ていけば、ここまで騒ぎを大きくしないでもすむのに」
「仕方ありませんよ。あの少年から「何か」を感じ取っているのは、私とあなただけです。つまり」
「つ、ま、り。彼にはあたし達二人と関係のある力が隠されていて、どちらかが近づく事だけでもそれが発動してしまう、か、も、し、れ、な、い、でしょ。何度も聞かされたわよ」
 青年の言葉を奪い取るように、わざと説明口調で女性が言う。そこには苛立ちが表れていたが、青年は飄々とした態度を崩さなかった。
 それにより、女性の表情はさらに険くなった。
「いっそ殺しちゃえばいいじゃない」
「そうはいきませんよ。正体が具体的に分からない以上、こちらの手許で真剣に分析をするべきでしょう?」
「まったく……! 屋敷周りじゃあ、先代の乗り手の張った結界があって手が出せないし……」
 だが、そこで彼女は無理に意識したように息を吐き、肩の力を抜いた。
「もう、いいわ。早くさらって退散しましょ」
「そうですね……おや?」
「ん? ああ」
 女性は顔をしかめた。
 空間の一部に波紋が出ている。それが烈風神の出てくる前触れである事を、青年も女性も知っていた。
「今、飛んでるあいつらじゃ、束になっても烈風神には勝てないわね。あたしも出るわ」
「がんばってください。でも、くれぐれもあの少年には手を出さないでくださいよ」
「……人事みたいに言ってないで、あんたも手を貸しなさい」
「ええ、もちろんですとも。そうですね……じゃあ烈風神の中にいる少女と話をさせてあげましょう」
「それは……多少はおもしろそうね」
 女性は指を立てると、空に奇妙な模様を描き始めた……。



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