「なっ、何だこりゃ!?」
 巧が思わず素っ頓狂な声を出したのも、無理のない話だろう。
 大炎帝のモニターに映っていたオフィス街と青空が、突然岩肌の剥き出しになった荒地と、赤黒く渦巻く空に変わったのだから。
「せ、先輩……っ!」
 京一もうろたえている。
 巧はとりあえず通信機のマイクを手にとった。
「こちら大炎帝チーム、IDM極東支部は応答してくれ。応答してくれ……もしもーし……くっそ、つながりゃしないな」
 巧がマイクを戻すと、スピーカーから大炎帝が声を発した。
――ここはどうやら、次元の狭間に造られた結界のようだな――
「次元の狭間……? 結界?」
 オウム返しに聞いたのは京一だ。
 大炎帝は、ああと彼に答えた。ここで人間なら、頷く動作が入るのだろう。
――次元の狭間というのは、君達や私がいた世界と、どこか別の世界との間にある空間だよ。結界は……――
「っ……!」
 話の途中で、巧は身を乗り出した。
 顔色は変わり、もしシートベルトで固定されていなかったら、腰を浮かせていたかもしれない。
 まるで大炎帝の説明に、魂をむりやり引きぬかれたかのようだ。
「……先輩?」
――巧、一体どうしたんだ?―― 
 仲間二人の戸惑った声で、彼は我に返った。
「え、ああ……ちょっと、な」
 首を何度も小さく縦に振りながら、シートに座りなおす。
「続けてくれ」
 大炎帝は釈然としないようだが、あえて追求はしてこなかった。
――……結界は、次元の狭間に作られた箱庭のようなものだ。本来上下の区別さえ曖昧な場所に、魔力でこのような空や地面を作ったんだ――
「詰まるところ、これも"異形"の仕業か」
 巧の目が鋭く光る。もう先ほどの動揺は欠片もひきずってはいなかった。
――間違いないね。次元の狭間へ敵を閉じ込めるのが得意な"異形"には心当たりがある。三体いた"異形"の指導者の一体で、かつて私達は"影渡り"と呼んでいたよ――
「いきなり大物の登場だな。……それでここから脱出はできるのか?」
――ああ。多少時間はかかるが可能だよ。次元の狭間と一口に言っても、多層に分かれている。ここはその表層だから、元の世界との接点を見付けるのも難しくない――
「じゃあ"影渡り"の目的は、俺達を完全に排除する事じゃなく、少し間だけ時間を稼ぐって事になるな。連中は住宅街を襲って、何を狙っているんだ?」
 ビーッ、ビーッ
 巧の思考は、機内に取りつけられた警告用のアラームで遮られた。
 顔を上げると、周囲の空間のそこかしこに奇妙な歪みが発生している。
――気を付けろ。敵が転移してくる!――
 大炎帝の言葉から僅かに遅れて、歪みを広げて小型の"異形"が多数出現した。
 姿は恐竜のプテラノドンに似ているか。
 小型とはいえ、広げた翼の幅は四メートルほどある。
「素直に逃がしちゃくれないか。……大炎帝、変形だ! 京一はマルチランチャーに電磁ネット弾を装填して、コンテナから出すんだ!」
――了解!――
「はいっ!」
「よぉっし、戦闘開始っ!」



NEXT