「ああ、びっくりした……」
屋敷の中へ駆け込み、綾は胸をなでおろした。
烈風神の声は追ってこない。
「今の、何だったんだろ? いきなり怪物と戦えなんて……私、いつもぼうっとしてるから、起きたまま夢を見ちゃったとか……?」
そんな事あるはずもないのだが、綾自身は納得してしまいそうになる。
そこへ声が飛んできて、彼女は我に返った。
といっても、今度は聞きなれた仕事仲間の声だ。
「綾っ、大変だよ! 早くっ! こっち!」
見ると、廊下向こうの一室から同い年のメイド東雲美保が顔を出して、手を振り回している。
もとい大きく手招きしている。
「美保ちゃん? どうしたの?」
「いいから早く来なさいって!」
その強い口調に綾は慌てて駆け寄った。
「ほら、あんたも見て!」
室内では使用人が集まってテレビを囲んでいた。
そこに映っているのは。
「!」
綾は愕然となった。
画面に映っているのは、たった今烈風姫に見せられた影型の"異形"だったのだ。
身長は2、30メートルはあるだろうか。
家屋を踏み潰し、街中を闊歩している。
「あれ、臨時ニュースよ! 作り物じゃないからね! あの怪物……坊ちゃんが通ってる学校の近くにいきなり出たのよ!」
ショックで美保の言葉は頭を素通りしていたが、最後の部分はしっかり綾にも聞こえた。
「広哉様の!?」
「そう! あの怪物、坊ちゃんの学校に向かってるのよ!」
「……っ!」
綾にとって広哉は特別なのだ。
迷っている暇はない。
綾は反射的に部屋を飛び出した。
目指すのはもちろんさっきの社である。
「綾!? どうしたのよ! 落ち付きなさいって!」
後ろでは美保が叫び続けていた。