ブレイバー・フォーメーション
〜または、勇者はいかにして少女と犬娘を救い出し、怪物共を撃退したか〜

 

 

聖牙は夢を見ていた。

夢の中で聖牙は、暗い闇の中で一人立ち尽くしている。

 

(どこだろう・・・ここ)

 

辺りを見回す聖牙の背後で、突如眩い閃光が走った。

閃光が近付くにつれ、それが幾つもの物体がぶつかり合う瞬間に起こっている事が解る。

 

(あれは?)

 

どんどん近付いてくる閃光はやがて聖牙の周囲にまで及び、そこには聖牙の良く知る姿があった。

 

(・・・セイガー!)

 

黒いボディ、そして胸に二つの狼の頭を持つロボット。それは間違いなく聖牙と共に戦う勇者、タプファーカイトセイガーであった。

だが、T−セイガーは聖牙の姿など見えていないかのように戦闘を続けている。敵の姿は窺い知る事ができないが、そこから発散される禍々しいオーラは、それが只者でない事を知らせていた。

 

(セイガー、危ない!)

 

目の前の敵にかかりっきりになっているT−セイガーの頭上から、またもう一つの「闇」が迫っていた。叫ぶ聖牙。だがその声も虚しく迫る「闇」によってT−セイガーが吹き飛ばされる!

そして更に複数の「闇」がT−セイガーを包囲しようとした時、新たに現れた幾つもの「光」がそれらを次々に包み込み、消し去っていった。

その「光」は、T−セイガーと同じロボット達だった。

ある者は凄まじいまでのパワーで敵をねじ伏せ、またある者は超スピードで敵を翻弄する。剣を使うロボ・銃を使うロボ――姿も武器もそれぞれ異なっていたが、そのどれにも共通していた物。それは光り輝く意思「勇気」が強く感じられる事だった。

ロボット達によって「闇」が完全に消し去られると、辺りが暖かい「光」に包まれ、聖牙の前に一人の女性が現れた。

逆光のせいでその顔は解らなかったが、女性は穏やかな声でこう言った。

 

「貴方と同じ『勇気の力』を持つ人が、他の世界に散らばっている・・・力を合わせて――」

 

次の瞬間、光が強まって女性の姿と声が掻き消されていった。

 

 

 

「う・・・うん・・・」

 

目を醒ました聖牙は、今見た夢を反芻した。

 

「何だろう、あの人・・・うわっ!」

 

突如として顔に被さった何かに、聖牙の思考が停止する。

思わず手に掴んだそれは、犬の尻尾のようだった。

 

「・・・・・・?」

 

尻尾の先を伝って行くと、その手に本体が当たった。犬とは似ても似つかない、人間のお尻にそっくりな。

 

「・・・ん〜♪」

 

尻尾の主は極楽浄土にでも居るかのような心地の声を上げると、ゴロリと寝返りを打った。

 

「え・・・?」

 

ハタハタと尻尾を振るのは、殆ど半裸と言ってもいい少女――と言っても聖牙よりも全然年上の、だが――だった。その頭には尻尾と同じく作り物とは思えないほどにリアルな犬耳がピコピコと動いている。そのあまりに常軌を逸した光景は、聖牙の頭の回転が限界を突破するのに充分なものだった。

 

「・・・うわあああ〜っ!」

 

混乱の極地に到達した聖牙の叫び声に、家の電気が一気に点灯する。

 

「何だ何だ何だーッ!」

「聖牙君!?」

 

別室で休んでいた勇来拳路と申渡渚が部屋のドアを蹴破らん勢いで開けると、そこには錯乱した聖牙ともう一人、ハイティーンくらいの少女が目を醒まそうとしていた。

 

「ん〜・・・何ぃ〜?」

 

少女は寝惚け眼を擦ると辺りをキョロキョロと見回し、呆然とした表情の拳路を見つけて呑気に手を挙げる。

 

「あ〜、ただいま拳路〜」

「ただいま拳路〜――じゃ、ぬゎぁーいっ!」

 

次の瞬間、閑静な住宅街に鈍い打撃音が木霊した。

夜中とは思えない程に騒々しくなった寝室で、ようやく意識のハッキリしてきた聖牙は事の経過をようやく思い出していた。

今、この時代は2025年だ。自分たちが生きていた時代から五世紀以上も前の世界、しかも聖牙たちの住む世界とは別の歴史を進んでいる並行世界に転移してしまった聖牙と渚は、この世界の地球防衛組織GEOによって保護された。

寄る辺もなく途方に暮れていた二人は、聖牙と同じような「事情」でGEOの特別隊員として地球防衛の任に就いている拳路の家に居候する事となったのだ。

 

 

一〇分ほど経った拳路宅のリビングで、聖牙は気を落ち着ける為に拳路の入れたお茶に口を付けた。

対面では拳路が憮然とした表情でパイポを齧っている。

 

「悪いな聖牙。こンのバカ! ・・・がジャマしたみたいでな」

「酷いよ拳路ぃ・・・。ちょっと疲れて寝惚けてただけなのにぃ」

 

片方の少女は既に着替え、大きなコブの出来た頭をしきりに擦っている。

 

「あのー、その人? は・・・」

 

渚の問いに、拳路が重々しく口を開く。

 

「前に話した、この家のもう一人の居候だ。名前はエル、見ての通り地球の人間じゃあない」

「それじゃ宇宙人?」

「まあ、そんなところだ。詳しい話は長くなるから割愛させてくれ」

 

頷きながら答える拳路。エルは少々不満そうに口を尖らせたが、それを肘で小突いて黙らせる。

 

(何で、私が宇宙人なのよぅ)

(説明が長くなるだろうが。それに、コイツらにお前の境遇話しても暗くさせるだけだろ?)

 

エルはもともと、聖牙たちと同じ様にこことは違う平行世界で暮らしていたが、現在拳路たちが闘っている敵、邪鋼帝国の要塞衛星によって星諸共に破壊されているという過去を持っているのだ。

 

「それで、何でエルさんは僕の部屋で・・・?」

 

素朴かつもっともな質問への拳路とエルの説明はこうだ。

聖牙たちがこの世界へと飛ばされてきた時、エルは他県に出現した邪鋼帝国の戦闘メカ・邪鋼獣の掃討に出撃していた。

やっとの事で邪鋼獣を片付けた頃には日もとっぷりと暮れ、家に着いたのは日付も変わった深夜。もともと早寝の体質の上に疲労困憊のエルはその朦朧とした意識に導かれるまま自室の隣である聖牙の部屋へと闖入、そのまま寝てしまったという訳だ。

 

「さてと、俺も明日は学校があるんだ。サッサと寝るぞー」

 

説明を終えた拳路が聖牙と渚を部屋に送ると、大きく伸びをする。

エルも自室へと入ろうとしたが、不意に大きな耳を傾けてあたりを気にし始めた。

 

「・・・お客さんてあの二人だけ?」

「そうだけど、何か問題でもあんのか?」

 

エルはしばらく注意深く辺りの音に聞き入っていたが、やがて諦めたように頭を振って部屋のドアを開ける。

 

「気のせいだったみたい。んじゃ、お休みー」

「?」

 

小首を傾げる拳路も部屋に入った頃、拳路の家の前に立っていた女性がゆっくりと踵を返した。

 

 

 


【NEXT】