「帰ってきたんだな・・・この時代に・・・・・・だが急がなくては・・・手遅れになる前に・・・」

 小高い丘にある公園から夜の聖アスタル学院を見下ろす青年。

 予定の位置よりだいぶ離れた地点に出てしまったようだ。

「・・・・・・いつまでそうしている気だ?」

 青年は振り返り後ろにいた数人の男たちに話し掛ける。

 先ほどから隠しきれない殺意が自分に襲い掛かっているのは感じていた。

「俺に何のようだ・・・?」

「時の異邦人、我らの計画に貴様は邪魔だ。ここで消えてもらう」

 そう言うと男たちの身体が変化を起こし、服が内側から破け異形の化け物と化した。

「ギガノスの獣人・・・じゃない・・・・そうか、貴様らもトリニティか・・・」

 化け物を前にしても青年は臆する様子もなく。迎え撃つべく身構えた。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 突然の悲鳴が夜の公園に響き、その声に振り返るとカップルがこちらを見ていた。

「まずい!」

 彼らを巻き込まないようこの場から離れようと駆け出す青年。

「ガアァァァァァッ!」

 しかし異形の化け物は逃がすまいと駆け出した青年に向って跳躍すると次の瞬間、口から火炎弾を放ってきた。

「ちっ!!」

 そして火炎弾が炸裂し、青年は爆発に飲み込まれた。

「!!」

 だが爆発の中から一陣の白い光が飛び立ち、丘を飛び降りていく。

 その光の中には人影があった。

「グルルルゥゥゥ」

 異形の者たちはその光を追って丘を駆け下りていった。

 後に残されたのはカップルと爆発の跡だけだった・・・・・

 

 

第4話
―時の勇者、帰還!―

原案:毬谷敦子 文章:神楽神威

 

 ラストガーディアンに搭載予定のDDBシステムを開発している工場から何者かによって機密データが盗まれるという事件が頻発した。

 DDBシステムとはディメンジョン・ディストーション・ブレイクシステムの略で。これはトリニティが出現する際に発生する時空歪曲(ディメンジョン・ディストーション)に空間湾曲エネルギーを叩き込む事でワームホールが発生する前に消滅させるというシステムである。

 これさえ完成すればトリニティの出現をある程度抑えられるはず。

 だがシステムが膨大なためBAN関連工場にて分担開発していたのだがそこが次々と襲われたのだ。これがトリニティによる犯行だとすればおそらく先日誘拐した那魅の記憶を調べるなりしてBAN関連施設の情報を入手したのだろう。

 だが今回ばかりは様子が違った。いつものトリニティの力押しのような襲撃とは少し異なり、まず巨大ロボットによる襲撃で、皆の注意を惹き付け、その間に別の犯人が施設に潜入、データを盗み出し、データを破壊するという物であった。

 犯人は本当にトリニティなのか、それとも別の組織による犯行か?

 そこでその夜からBANでは予め二手に分かれて次に狙われると思しき施設を交代で張り込む事になった。

 

 施設の表を律子と麗奈と大地が、裏は沙希と隼人と音彦が張り込み、物陰に潜んで犯人が現れるのを待っていた。

「律子さん、本当に今夜来るんでしょうか?」

「さあ、残念だけどそれは何とも言えないわね」

 いつもなら既に寝ている時間だろう。なんとなく麗奈が何を気にしているのか察して苦笑して答える律子。

 やはり年頃の女の子にとっては夜更かしは大敵なのだ。カイザーの戦巫女となってから夜更かしもざらではなくなり、年頃の少女の麗奈は心の中で溜息をついた。

(フェアリス・・・・ちゃんと寝ているかな)

 妖精のような容姿の小さな少女の事を思い浮かべる麗奈。普段は麗奈の側を離れないあの娘もさすがにこの時間では御国守神社に残して来ている。

「そういえば律子さん、公園で起きたっていう例の事件ってどうなりました?」

「詩織たち警察で調査中。トリニティとの関連は不明ね」

 その問いに冷静に答える律子。

 大地が聞いているのは一週間前、聖アスタル学院近くにある公園で起きた例の事件だ。

 カップルの証言を基に警察で調査する事になったのだが。現在はトリニティと妖魔の両方の線で調査中だった。

「化け物か・・・もしトリニティなら今回の襲撃事件と関係があるのかな」

「直ぐに結びつけるのは良くないわね。そもそも今回の襲撃がトリニティのものとは限らないから」

 そう。もしかしたら人間の犯行かもしれないのだ。BANには最先端の技術が集まっている。それを狙う犯罪者や闇組織などもいるのだ。今回の件がそういった者達による犯行という事も大いにありえる。

「妖魔や夢魔、そしてトリニティ・・・。人知を超えた様々な敵が襲ってきても、最後の敵は人なのかもしれないわね」

「「・・・・・・・」」

 律子のシビアな意見に黙り込む二人。

 だが大地は少し分かる気がした。惑星ティガーでも地底界による侵攻が行われようともドラゴニア王国とロカリス帝国の対立は収まらなかった。どこの世界においても人というものは変わらない。結局、人は戦いを忘れることが出来ないかもしれない。

 

 重苦しい雰囲気が流れる中、大地がそれに気づいた。

 暗闇の向こうに人影が二つ。次第にこちらへと近づいてくるのが見えた。

「律子さん!」

「静かに」

 まだ早い。もう少し近づくのを待ってからだ。

 息を潜め物陰に潜みながらタイミングを待つ律子。そして・・・・・

「止まりなさい!!」

 隠れていた物陰から飛び出し、人影の前に踊り出る。

 突然、現れた麗奈たちに夜闇の向こうから人影が動揺しているのが伝わってくる。

 同時に照明が一斉に付き、二人を照らす。

 照明の光の中、姿を現したのは白い鎧=強化スーツの類を纏った戦士と、腰に刀を携え仮面を付けた長い黒髪の少女であった。

「お前達が連続襲撃犯か!」

 銃を構え二人に向かって叫ぶ律子。その隣では大地がいつでも精霊魔法を使えるように構えを取り、麗奈も式神を召喚できるように札を手に術の構成に入っている。

「待ち構えられているとはな。だったらっ!!」

 だが白き鎧の戦士は怯む事はなかった。

 戦士が空に向って何か叫ぶと次の瞬間、どこからともなく二機の戦闘機が飛来してくる。

ズダダダダダダダダッ!!

バリィィィィィィン!!

 そして小型の戦闘機から放たれたバルカンが照明を破壊し、一瞬にして辺りが暗闇に覆われる。

「しまった!?」

 律子たちの視界を奪ったその隙に、小型の戦闘機が戦士を収容するともう一体の大型戦闘機が分離変形、小型機を包み込む形で大型戦闘機が合体し巨大ロボットとなった。

「麗奈!」

 麗奈の左手のブレスレットが光りを放ちながら宙へと浮かび上がるとカイザーへと変化し、麗奈を守るように巨大ロボットの前に立ちふさがる。

「麗奈!」

「OK! 龍王合体ね」

 天に手を掲げ、その手に龍の杖を呼び出し、龍王ナーガを召喚しようとする麗奈だったが。

「はぁっ!!」

 次の瞬間、仮面の少女が刀を抜き放ち跳躍した。

 まさに疾風の勢いで麗奈との距離を零にした少女は一瞬にして間合いに入り込み、麗奈に向って刀を振り、斬りかかってきた。

「!?」

 不意を突かれた麗奈だったが咄嗟に龍の杖を構え、少女の一撃を防げたのは本当に奇跡に近かった。

 だがナーガの召喚には失敗してしまい、その間にも巨大ロボットとカイザーが戦いを始めるが、さすがのカイザーも巨大ロボットに対して合体できない状態では不利のようだ。

「大地さん、カイザーの援護をお願い!!」

「わ、わかった。ランドビークルッ!!

 仮面の少女も気になったがここは律子たちに任せるしかないと判断し、ランドビークルを召喚し、ガイランダーに吸収合体する。

 ランドタイガーも召喚したいところだったがそんな時間はない。そのまま巨大ロボットと戦うカイザーを援護するべく二体の戦いに割って入っていった。

 

 カイザーとガイランダーが巨大ロボットと戦う一方で対峙する麗奈と仮面の少女。

 緊張した雰囲気が走る中、動かない両者。

 だが吹きぬけた風を合図に仮面の少女が再び麗奈へと襲い掛かった!

「はぁっ!!」

「くっ、宿禰(すくね)!!」

 麗奈は龍の杖で少女の刀を弾き返し、少女が怯んだ一瞬の隙をつき放った札が、人より少し大きい翼を持った白い狛犬の姿をした式神=宿禰となって召喚される。

「!?」

 式神の概念を知らないのだろう。突然現れた宿禰に驚き、隙を見せる少女。

「宿禰!!」

 少女に生まれた隙を突き、宿禰で体当たりさせ、少女を突き飛ばす。

 吹き飛ばされながらも態勢を整え、後ろに倒れる事を防ぐ少女だったが、突き飛ばされた拍子に少女の仮面が剥がれた。

 仮面が弧を描きながら地面へと落ち、カランという無機質な音を立てる。

「えっ!?」

「・・・・っ!」

 仮面の下の素顔は麗奈とそう変わらない年の少女だった。お互いの顔を見つめあったまま動きを止める二人。

 麗奈の瞳に少女の瞳が映り、そこに麗奈はある感情を見つけた。

 そしてその様子を見守っていた律子も少女の顔から眼を離せないでいた。

「あなたは……?」

 麗奈が少女に対して声をかけようとするが、戦闘を繰り広げていた巨大ロボットはそれに気づき、カイザーたち押し返すと、少女をその手に乗せて飛び上がる。

「ま、待って!!」

「麗奈!!」

 少女を呼び止めようと手を伸ばした麗奈だったが、次の瞬間、巨大ロボットから放たれたビームキャノンが施設を破壊し、爆風から麗奈を守るようにカイザーがそれをさえぎった。

 律子もガイランダーに守られていたが、その律子は爆発の炎に照らされ、闇夜に浮かび上がった巨大ロボットの姿から目が離せないでいた。

 そして巨大ロボットは少女を手に乗せたままどこかへと飛んでいく。

「・・・・・・・・」

 爆風が収まった後、巨大ロボットが飛び去った方角を呆然としながら見つめる律子。

「おい、大丈夫か!」

「犯人はどこや!」

 ようやく騒ぎを察したグランクロス、ウルフブレイカー、ソニックガイアンたちが駆けつけるが、時既に遅く、巨大ロボットは行方をくらましていた。

「麗奈さん、無事ですか!?」

 グランクロスの手から降りて麗奈のもとに駆けつける沙希。

「うん、大丈夫。襲撃犯には逃げられちゃったけど・・・・・」

 先ほどのショックから多少回復した麗奈が沙希の質問に答える。

「くっそぉ、わいがこっちおったら絶対逃がさへんかったのに!!」

「今は救出活動の方が先だろうが」

 その場で地団駄踏むソニックガイアン=音彦を横目に冷静に進めるウルフブレイカーの隼人。

「わかっとるがな」

 とりあえず分離してソニックライナーのメディカルシステムを使い負傷者の救護にあたる音彦。

「ブリザードストーム!!」

 威力を調節して胸から冷気の風を炎に向けて放ち、消化活動に当たるウルフブレイカー。

「グランクロスも救助に当たってください」

「心得た」

 沙希の命令を聞き、グランクロスは瓦礫の撤去に取り掛かる。

「あっちゃぁ、こら数が多すぎるで。ソニックライナーだけじゃ間に合わんわ」

 次々と救助され運ばれる怪我人の量に音彦が音を上げる。

「そうだな。こうなったらラストガーディアンに運ぶしかないな」

 瓦礫から救助した怪我人を運びながら大地が音彦に答える。

「そうね。律子さんに掛け合ってみるわ」

 大地の提案を聞き、律子のもとに駆け寄る麗奈。

「律子・・・さん?」

 そしてまだ空を見上げたままの律子の様子に気づく。

「あれはまさか・・・でも・・・何故・・・・?」

「律子さん、何か知っているんですか?」

 律子の様子からさっきの女の子と巨大ロボットに関して彼女が何か知っているのではと気づき聞いてみる。

「ええ・・・・あれは・・・・CRONOSよ」

「クロノス・・・・?」

 茫然とその名を呟く麗奈。

 そして律子は語りだす。

 仮面の少女の名前は神崎雪乃という少女だった事……

 そして爆発の炎の中、浮かび上がった巨大ロボットのフォルムはクロノカイザーに酷似していたという事……

 


【NEXT】