巧が病室から出ると、廊下には長瀬雅が立っていた。
「雅……杏奈の見舞いに来たのか?」
「はい。それと……もう一つ」
「もう一つ?」
「小早川さんにも用事があるんです」
「?」
そう言われても心当たりがなく、巧は怪訝な顔になる。
「すうっ……はあっ」
と、雅は彼女にしては珍しいオーバーアクションで、一回深呼吸をした。そして、巧をひたと見据える。
「……雅?」
「巧さん。私は……あなたが好きです」
その言葉が巧の頭に浸透していくのには僅かばかりの時間が必要だった。
「って、えっ……ええっ!?」
病院内という事を忘れて、巧は大声を出してしまった。
「勿論、巧さんが藤沢杏奈さんを誰よりも大切に想っているのは知っています。でも、この気持ちは伝えておきたかったんです。これからは……私も変わっていきたいから」
そういって雅は端正な顔に微笑を浮かべた。
「知りませんでした。言いたい事って、言うとすっきりするんですね」
そこで雅はマイペースに杏奈の病室へ向き直り、取り付けられた呼び鈴を鳴らした。
「はい」という返事を待って、雅はドアノブに手をかける。
「私、諦めていませんから」
悪戯っぽく、だが目だけは本気で巧に告げて、雅は病室へ入っていった。
ドアが閉まると、後には予想外の展開で呆然となる巧だけが残されたのだった。