「なるほど」
あれからさらに三日後。広哉の父であり、屋敷の主である篠崎正人が海外の出張から帰ってきた。そこで綾は、彼に時間を取ってもらい、今度は一対一で自分の体験した事、烈風神から聞かされた事を告白したのである。
それを聞き終えた正人の第一声が「なるほど」であった。意外にも、切れ者と評判の正人は、綾の話をそのまま信じてくれた。綾の真摯な態度に感じるものがあったのか、それとも綾の考えの及ばない理由があるのかは分からないが。
「それで佐倉君はここを出てから、どうしようと思っているのかね?」
知的で物腰も柔らかいが、正人はどこかに威厳めいたものを持っている。忙しくてあちこち飛び回っているため、会う機会はあまりないのだが、彼の前に出ると、つい綾は緊張してしまう。
「あ、IDMの人に連絡しようと思ってます。あの人達なら、"異形"と戦ってますから」
「そうか。……けれど、できれば君にはここに残っていてほしいね」
「それじゃ、ここの人達に迷惑が……」
「それなんだが」
と、綾の発言にかぶせるように、正人は告げた。
「私は先日狙われたのが君ではなく、広哉かもしれないと考えている」
「ええっ?」
綾は目を丸くした。
「これは私の他に亡くなった妻と、担当した医者しか知らないんだが、広哉は九歳の時にサイキック能力の判定を行っているんだ。その結果、ブラックボックスとでも言うべきものを持っている、と結果が出た」
「ブラック……ボックス……?」
「そうだ。現段階の測定方法では分析不能な何かが、広哉の中にはあるらしい。なぜ、そんなものが発生したのかは全く不明だと、担当医は言っていたよ。父親の心配性かもしれないが、"異形"はそれを狙っているような気がしてね。最初にヤツらが現れたのも、広哉の学校の近くだっただろう?」
「…………」
思いがけない話だった。
正人は椅子に座ったまま、両手を軽く組んで綾を見上げる。
「どうだろう? この家でもう少し様子を見てくれないか?」
正直、それは綾からすれば願ってもない提案である。
しかし、もし本当に広哉が狙われているのだとしたら……。
喜んでなどいられない。
「……わ、分かりました」
綾はぎこちなく頷いたのだった。
最後に正人は付け加えた。
「それとIDMだが、そろそろ向こうから接触を取ってくると思うよ」
「え?」
「IDMの情報収集力と技術力は君の想像以上だ。今頃は君の事も広哉の事も探り当てているだろう。たぶん、篠崎家の関係者という事で慎重に動いているのだろうな」
……正人がした予測は正しかった。そしてそれを綾が知るのは、もう間もなくの事であった。