最後の死闘から数日後――
「どうだい、気分は」
 そう尋ねる巧に、病院のベッドの上で身を起こした杏奈は、微かに笑ってみせる。
「うん、大分良くなってきてる……」
「そっか。とにかく、ゆっくり休んで身体を治せよ」
 巧は笑顔で杏奈の髪をクシャッと撫でた。五年前と全く同じ彼の仕草に、一瞬、杏奈の瞳に嬉しそうな色が宿る。だが、彼女はすぐに俯いてしまった。
「でも、わたしは……。IDM基地を襲って多くの人を傷つけて……他にもひどい事をたくさん……」
「杏奈」
 大切な女性の名を呼び、巧は自分の手を震える彼女の手に添えた。
「あれは“影渡り”がやった事だ」
「でも……!」
「それでも……それでも杏奈が納得いかないなら、償う方法をこれから探していけばいい。時間はたっぷりあるんだ。俺も協力する」
「巧……」
 杏奈の声に涙が混じる。
 そんな彼女の頭を、もう一度巧は撫でるのだった。



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