「はぁっ……はぁっ」
 なおも向き合い、互いの得物を打ち合わせる烈風神と聖海姫。
 しかし、一方的に攻撃を受けているのは、本気で戦えない烈風神の側であった。
 まだ致命傷には至っていないが、このままではいずれ体力を削り切られるか、タイムリミットを迎えてしまうかのどちらかだ。
「烈風神さん、どうすれば……」
――……一つだけ可能性はある……――
「えっ」
――そなたの内で眠る霊力を最大限に引き出し、妾の力に変える。そして一気に放出するのだ。そうすれば聖海姫から“破壊するもの”の魔力を除去できるかもしれない――
「それなら……」
――だが!――
 烈風神が綾を遮って続ける。
――霊力を無理に引き出せば、そなたの命に関わる! そなたは死ぬかもしれぬのだ!――
「……!」
 さすがに、綾も一瞬言葉に詰まった。
 そこへ聖海姫の霊力で生み出された水の塊が撃ち出される。水とはいえ、勢いと質量を持てば、砲弾のような破壊力だ。
 その打撃を、隙を突かれた烈風神は正面から喰らってしまった。
――あぐぅっ!――
 身体をくの字に折り、烈風神は膝を屈する。
 しかし、逆にそれで綾の心は決まった。
「私……やります!」
――綾……!――
「私を信じてください!」
 もう迷いはない。強い意志で叫ぶ綾。
 烈風神もそれに応えた。
――……ああ、分かった! そなたの力を、心を信じよう!――
 直後、綾は自分の体内で何かが膨れ上がるのを感じた。
「うっ……くっ!」
 少しでも気を抜けば、己を吹き飛ばしてしまいそうな力を、彼女は何とか制御しようとする。
「うっ……ああうっ!」
 余波は烈風神の外にも溢れ出し、暴風のように玄室内部で荒れ狂っていた。
「これが……今度の乗り手の力……」
 圧され、後退しながら呟く核の少女の顔には、始めて表情らしきものが出ていた。
 それほどの霊力を開放しながら、綾は自分の裸身を両手で掻き抱く。
「うっ……あああああああああっ!」
 彼女の絶叫と同時に、力はついに烈風神のそれと融合した。
 光が部屋に広がり、少女と聖海姫を飲み込む。
「……!」
――やったか……!?――
 だが顔を上げた綾と烈風神は見てしまった。
 光の収まった先では、なおも聖海姫が敵の少女をかばうように立っていたのである。
「失敗……!?」
――ううん、そんな事ないよ――
「えっ?」
 綾と烈風神の耳に届いたのは、優しい少年の声だった。それが誰であるかは言うまでもない。
――綾の心、僕のところまで届いたよ。だから僕は目を覚ます事ができた――
「広哉様! どこにいるんですか!」
――綾の正面の壁の中。“破壊するもの”の核の後ろ――
 言われて、烈風神の超感覚がそこへ集中する。
――いたぞ!――
“破壊するもの”の強大な魔力に飲み込まれて、今まで気付けなかったが、確かに別種の力が隠されていた。
 篠崎広哉の話は続く。
――僕、捕まってる間にぼんやりと“異形”達の会話が聞こえたんだ。僕の力が本当に発揮されるのは……僕が死ぬ時なんだって――
「……え?」
 綾はかすれ声を漏らした。
――綾、時間がないんだよね。だから僕の命をあげる。それで……勝って――
「ま、待ってください! 広哉様!」
――綾……大好きだよ――
 大好きだよ、その言葉に続き、広哉がいる壁の奥から凄まじい閃光が放たれた。綾と烈風神が放った光よりもなお強い光。
 それは……広哉の命の輝きそのものだった。



NEXT