「さあっ、早速片付けてこようか!」
「はいっ!」
 ヘルメットを片手に、小早川巧は相良京一を伴って大炎帝のドックへと入る。
 そんな彼を、ドック内で雅が待っていた。
「小早川さん、少し話をしていいでしょうか?」
「?」
 巧は面食らった。今は出撃前なのだ。わざわざ呼び止めるとは雅らしくない。だが、彼は頷いた。
「ああ」
「じゃあ、先輩っ! 俺は先に行ってます!」
 京一は間も置かず、素直に言うと、自分の乗る飛行ユニットに向かって走っていった。
 それを巧は笑みを浮かべて見送る。
「あいつ、いつも元気だよな。特に今回の敵なんて、最悪のヤツなのにさ」
「それはあなたも同じなのではありませんか?」
「そうかい?」
 僅かに突っかかってくるような気配を感じつつ、巧はそれに気付かないふりをして聞き返した。
「はい、今回だけではありません。出撃の時はいつもそうです」
「アドレナリンが出まくってるからだろうな」
「……無理をしているから、ではないのですか」
「無理? 俺が?」
「はい、先日お話を聞いてから、ずっと考えていました。小早川さんの力は、欲しくもないのに研究所から無理矢理押し付けられたものなのでしょう? そんな力を使って戦うのを……苦痛とは思わないのですか?」
 雅の目は真剣だった。
「そういう内容か」
 巧はため息と共に頭を掻く。
 戦いの前にするべき話ではない。だが、こんな時だからこそ、雅は聞いてきたのかもしれない。
「心配してくれてありがとな。……うん。正直言うと、最初に俺がIDMのスカウトに応えたのは、杏奈のためだったんだよ。IDMの科学力なら、いつか杏奈を次元の狭間から救い出す方法を見つけ出せるかもしれない、そういう期待があったからなんだ。その頃の俺は、雅の言うとおり、無理して力を使ってた。けどな、今は違うぜ」
「えっ?」
「杏奈の他にも助けたいヤツ、護りたいヤツ、力になりたいヤツがたくさんできたからさ」
 そこで巧は目を飛行ユニットの方に向けた。「弟みたいなやつ」
 続いて雅を優しく見つめる。「妹みたいな子もできた」
「妹みたい……ですか……」
 雅は小さく繰り返す。その真意に巧は気付かない。
「俺は戦いを苦しいとは思わない。テンション高くなるのも、頑張りたいっていう意志の表れだよ。だから安心しなって」
 巧は軽く雅の頭をポンと叩いた。
「んじゃ、行ってくるわ」
 そう言って歩き出す。
「巧さん!」
 後ろから大声で呼び止められた。
「ん?」
 立ち止まり、振り返る巧。
「お願いです……」
 雅は小さく震えていた。
「死なないでください……」
「おう、任せとけって」
 巧は笑顔で頷いたのだった。



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