烈風神と鬼王。先に動いたのは鬼王であった。
 彼が手をかざすと、人間の姿の時にも放った衝撃波が烈風神に撃ち出される。もっとも真の姿に戻った今、威力は比較にならない。
 烈風神でも喰らえばただではすまないだろう。
――くっ――
 烈風神は、鳥神形態自慢のスピードで身を翻し、衝撃波を避けた。
 そしてお返しとばかりに、口から光熱波を放つ。
 しかし、鬼王は衝撃波のために突き出していた手で、それを難なく受け止めた。
「そんなっ……!」
 傷ひとつ付けられないのは、さすがに綾もショックだった。
「烈風神さんっ、闘神形態に変形です!」
――承知!――
 烈風神は一瞬でその姿を変えた。
 だが、その一瞬が命取りだ。
 ドガァァァッ!
 激しい衝撃波に綾は裸身を揺さぶられた。
「きゃあぁっ!?」
 鬼王の動体視力は僅かな隙を見逃さなかったのである。
 さらに追い討ちが放たれた。
 まっすぐ地へ落ちようとしていた烈風神は、それで後方へ跳ね飛ばされる。滑走路の舗装面を大きく削り、バウンドしながらかなりの距離を転がされた。
――う……ぅ……――
 ようやく止まり、倒れ伏したまま呻く烈風神に、鬼王の冷たい声が投げかけられた。
『立テ』
――言われる……までもない……――
 烈風神はゆっくりと立ち上がった。
 だがその姿といえば。
 右の翼が中ほどから無惨に折れていた……。
『フン、ソノ様デハ、モウ空ヲ飛ブ事ハ出来ヌナ』
 鬼王の手が再び上がる。
『ヤハリ、俺ノ勝チダ』
――…………――
 烈風神は答えず、飛天槍を腰から引き抜いた。
柄の先端に光の刃が生まれる。
 だが、その間合いは敵の遠距離攻撃からすれば、余りに短い。
 鬼王は嘲るように鼻を鳴らした。
『無駄ナ足掻キヲ……行クゾ』
――……来てみろ――
 衝撃波が、飛んだ。土煙を巻き上げて、烈風神へ迫る。
 それに対して。
 烈風神は地を蹴った。
 紙一重で力の塊をしのぎ、飛天槍を繰り出す。
――閃光突破!――
 それはこの時代で烈風神が始めて使う技だった。
 光の刃が瞬時に長さを増して、衝撃波の軌道を遡る。
『ナッ……!?』
 鬼王にとっても予想外の反撃だ。
 その右肩口を光が貫いた。
『ガ……ァッ!』
 さらに強力なエネルギーが爆発的に解放され、鬼王の傷口を吹き飛ばす。
 弧を描いて鬼王は後ろへ跳ね上げられた。
 倒れる巨体に、大地が震える。
――とおおおおおおおおっ!――
 刃を戻すと、烈風神は裂帛の気合と共に跳躍した。
 仰向けの鬼王をまたぐように着地すると、その喉に飛天槍を振り降ろす。
 しかし、敵を貫く寸前で烈風神は手を止めた。
『グッ……ウ? 何ノツモリ、ダ?』
「……私の勝ちです。広哉様を帰して下さい。もうこんな事……しないでください……」
 涙交じりに、綾は声を外へ送った。
 敵に対しても冷酷に徹しきれない。怒って尚、彼女は彼女のままだったのである。
 しかし鬼王は、それを侮辱としか受け取らなかった。
『フザッ、ケルナァァァッ!』
 怒声を発して、彼は無傷のままの左腕を振るった。
 槍の穂先を払うのと同時に、衝撃波を生み出す。
 とっさに烈風神は飛びのいた。彼女がどいた事で、鬼王は上半身を起こす。
――鬼王、もう諦めろ。今ならお前を封印するだけに止めておく――
『ウルサイ! 俺ニ近ヅクナ! 一歩デモ来レバ、俺ノ体内デ赤イ石ヲ粉々ニ破壊スル』
「そんなっ!?」
 綾は悲鳴を上げた。
『俺ガッ……俺ガ負ケルハズガナイ!』
 立ち上がり喚き散らす姿に、鬼王の幼稚な本性が表れていた。
 その時、空から声が響いた。
「往生際が悪いぜ」
 それは小早川巧のものであった。
 飛行ユニットを再装備して、タンク形態の大炎帝が帰ってきたのである。
「とうっ」
 飛行ユニットと分離した大炎帝は、人型へと形を変えて着地する。さらに飛行ユニットがコンテナから落としたマルチランチャーをキャッチして、腰だめに構えた。
「大体の話は、帰ってくる途中に護衛担当だった二人から通信で聞かせてもらった」
 鬼王から狙いを逸らさず、巧は言った。
「さあっ、広哉を帰してもらおうか!」
『ウ……グッ』
「言わなくても分かるだろうが、石を破壊すれば、次の瞬間、お前は蜂の巣だぜ?」
『オ……オノレッ!』
 形勢は完全に烈風神と大炎帝に傾いたと思われた。



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