一方、勝つつもりでいるのは鬼王も同じだった。
(かつての屈辱……晴らしてくれる!)
 彼は誰にも負けない自信があった。かつては邪魔するものを全て力でねじ伏せてきたのだ。
 しかし百数十年前、彼は敗れた。烈風神とその乗り手に。
(否、あれは間違いだ。今こそその間違いを正す!)
 鬼王は自分の中の力を解放した。
「グ……オッ……オオオッ!」
 苦悶のものとも取れる唸りとともに、彼の身体が変わっていく。
 筋肉は限界を超えて膨張し、服を破りながら巨大化した。
掌の肉は、広哉を封じる石を内に取り込む。
 爪や牙も鋭く伸びた。
 時間にすればほんの数秒。
 それだけで彼は、烈風神と同じぐらいの身長にまでなっていた。
 口は耳まで裂け、目は赤く輝く。
 どこの器官が成長したものか、額には一本の角さえ生えていた。
 それはまさしく昔話に出てくる“鬼”の姿だった。
 鬼王はその名の通り、鬼の王であったのだ。
『イクゾ……』
 それまで『人』だったとは思えない、おぞましい響きの声で、鬼王は告げた。



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