大炎帝が基地から発進するのを、"影渡り"と"操り師"は離れた所で見送った。
 その傍らには一人の男が腕組みをして立っている。がっしりした体付きに鋭い視線。しかし、どこか暗い情念を感じさせる若者だ。
「あそこにあの女の子孫と、新しい烈風神の乗り手がいるというのだな」
 IDM極東支部の基地を睨みながら、男は聞いた。
「そうです、鬼王さん」
"操り師"が頷いた。
「私と"影渡り"さんが基地で騒ぎを起こします。あなたは百数えたら、基地に入って、仇の子孫を探してください。研究区までの道順は……さっきお話した通りです」
「ふん」鬼王と呼ばれた男は、おもしろくもなさそうに鼻を鳴らす。
「俺はもうあの女にも烈風神にも興味はないのだがな」
「そんな事言わずにお願いしますよ」
 笑いながら"操り師"は頭を掻いた。
「……まあ、いいだろう。お前らには封印を解いてもらった恩もある。だが、一度だけだ」
「はは、ありがとうございます。では、半刻後にここで落ち合いましょう。では……"影渡り"さん」
「ええ」むっつりとした顔で"影渡り"は応じた。
 二人は並んで基地に向かって歩き出す。
「……何なのよ、あの男は」
 ある程度距離を取ってから、"影渡り"は"操り師"だけに聞こえるように言った。
「口では興味ないとかいっておいて、恨み晴らしたいのが見え見えじゃない」
「だから、いいんじゃないですか。こちらがお願いするという形で出れば、仕方なくという体面を保っているつもりで誘導通りに動いてくれるんですよ?」
「勝手にあの子供を殺したりしそうだけど?」
「その心配はありません。子供を餌にすれば、烈風神を誘い出せる事も教えてあります。少なくとも烈風神が出てくるまでは、少年も無事です」
「まあ、あなたがそう言うならいいけど。ところで……どうやってIDM地下設備のマップなんて調べ上げたのよ」
「秘密です」
「あっそ」
「フフ」"操り師"は口の端を上げる。二人は基地の前まで来ていた。
 見張りのIDM隊員二人が制止の声を掛けてくる。
「さあ、始めましょうか」
 破壊を。



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