「……烈風神さん、あの人は……」
――姿は轟地将だ……。だが、気配は"影渡り"のものだ――
「それはどういう……」
――考えられるのはただ一つ。轟地将が"影渡り"に身体を乗っ取られた……!――
「ええっ!? ど、どうすればいいんですか!?」
――敵であれば、戦うしかない!――
「ダメです! だって、烈風神さんの友達なんでしょう!?」
――そうだ。しかし戦うとはいえ、心玉まで破壊するわけではない。身体を動けなくするだけだ――
「でも……」
――手加減して戦える相手ではない!――
「……はい……っ」
 そのやり取りが聞こえたわけでもないだろうが、轟地将の闘気も、烈風神に合わせて高まっていく。牛の口が大きく開くと、その奥に心玉があった。
 心玉は発光し、その輝きが巨大な斧を形作る。刃の部分だけでも、轟地将の胸板ほどもある斧だ。
 轟地将の太い両腕が光を掴むと、光が散り、後に実体化した斧が残る。
「あれは……!」
――轟地将は霊力を集中させて、あらゆる武器に変える事ができる――
――ウオオオォォォォッ!――
 轟地将は烈風神にも周囲の者にも聞こえる雄たけびを発し、斧を烈風神目掛けて投げつけてきた。
――くっ!――
 烈風神は身をひるがえすが、斧は意志でも持っているように、回転しながら空中で向きを変えて追ってくる。
――なんの!――
 烈風神は闘神形態になると、飛天槍を引き抜いた。
 斧と比べれば、はるかに華奢な槍だったが、霊力のこもった一撃は、斧を払いのける事に成功した。
 斧は光に戻って消え去る。
「へえ、やるわね」
 その声は綾のすぐ後ろから聞こえた。



NEXT