烈風神の住まう社は、周りを壁や木々で囲まれており、普通に考えれば、風通しは良くないはずだ。だが、烈風神の力の影響だろうか、辺りの空気は常に澄んでおり、心地良い空間を作っている。
 過去の話を烈風神に聞いてから数日経つが、その間にも、綾は昼休みなどを使って、ここを頻繁に訪れるようになっていた。もっと烈風神と色々な話をしたくなったのだ。
 いつ訪ねても、烈風神は社に小さな明かりを点けて、真面目に耳を傾けてくれる。そして、質問にはしっかりと答えてくれる。
 また、今日に限っては、綾の方から報告する事もあった。メイド服のまま、社脇の石の上にペタンと座って、彼女はそれを話す。
「……というわけなんです」
――そうか、いよいよ国際防衛機構が接触を取ってきたか――
 烈風神が呟く。
 そうなのだ。
 昨日の夜、IDMの最高責任者である兵藤吾郎極東司令から、篠崎正人の元へ連絡が届いた。両者の間でどんなやり取りが為されたのか、兵藤極東司令と大炎帝のパイロットは、次の日曜日に屋敷を訪ねてくる事となった。綾と広哉も同席するようにと、正人から言われている。
「……烈風神さんも気付いてたんですね、広哉様の事」
――うむ。……今まで黙っていてすまなかった――
「いえっ、そんなっ、とんでもありませんっ」綾はバタバタと左右に両手を振った。
「だって、烈風神さんは私達に心配かけたくなかったんですよね」
――まあ、な――
 烈風神の肯定は少し気まずそうだった。どんな理由があるにせよ、知っている事を綾達に隠していたのは、彼女自身が納得出来ないのかもしれない。
「だけど……広哉様の中にあるものって、何なんですか?」
――いや、実は妾にも分からぬのだ。彼の魂に何らかの力が秘められているのは間違いないのだが――
「そう、ですか」
――国際防衛機構は妾の探査能力を反らす結界や、大炎帝の新しい身体を作り出せるほどの技術を有する組織だ。彼らが本格的な検査を行えば、妾以上の事を掴めるかもしれぬな――
「…………はい」
――広哉ももう自分の事は聞かされたのであろう? 何と言っている?――
「何か力があるのなら、私や烈風神さんを助けられるかもしれないねって……。最初はやっぱりショックだったみたいですけど……でも、そう言ってくださいました」
――優しい少年だからな、広哉は――
「はい」
 綾は大きく頷いた。そして気付く。
「あっ、休憩時間、そろそろ終わりです。私、行きますね」
 綾はぴょこんと立ちあがった。



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