これまでの事を語るのに、さほど時間はかからなかった。そもそも話せる事自体が少ないのだ。
全てを聞き終えた美保は(ちなみに烈風神の中で服が消えてしまう事は、伏せてある)身を乗り出した。
「じゃあさ、綾も烈風神がどういうところから来たとか、"異形"がなんで人間を襲うのかとかは分からないわけ?」
そう尋ねられると、綾は「あうぅ」と詰まってしまう。成り行きで烈風神に乗り、その後しばらく関ろうとしなかったのだから、当然といえば当然だ。
すると広哉は、座っていた椅子からピョンと腰を上げた。
「なら、これから烈風神に聞いてみようよ」
「え?」
「僕も烈風神と話がしたい。綾の戦いがどんなものなのか、もっともっと知りたいんだ」
「広哉様……」
綾は不意に熱いものが胸にこみあげてきた。彼が自分を嫌いになったのではない。心配してくれている。
それが今やっと分かった。
だけど、と一方で不安もある。これ以上、広哉と美保を事件に近づけていいのだろうか。そうならないため、自分はメイドの仕事をやめるつもりなのに。
「綾っ」
名を呼ぶ広哉の口調はいつになく強い。烈風神と会うまでは、引き下がりそうになかった。温厚な彼がここまで言ってくれるのだ。考えた末、綾は広哉の気持ちに応える事にした。
「分かりました。烈風神さんのところへ行きましょう」