病院の外へ出ると日の光が眩しかった。
「さ、帰ろ」
「うん」
 綾は歩き出そうとした。
 しかし彼女の視界へ、門柱の向こうから前庭に駆けこんできた一人の少年の姿が入る。
 その少年とは――。
「広哉様……」
 学校からここまでまっすぐ来たのか、広哉はいつも登校時に使うカバンを背負ったままだった。また、かなりの距離を走ったらしく、敷地の入り口近くで一旦立ち止まり、肩を大きく上下させている。
 それから、何とかという感じで顔を上げ、広哉の方でもようやく綾に気付いた。
「綾っ」
 呼吸も落ち着かないまま、彼は綾の目の前まで走ってきた。
「綾っ、もう大丈夫なの!?」
「広哉様……はい、私はもう大丈夫です」
「そうっ……良かったぁ!」
 息を切らせながらも、広哉はニッコリ笑った。しかし、すぐ真剣な顔となる。
「でも綾、最近どうしたの? 元気ないし、もしかしてすごく無理してたんじゃない?」
「え、あの……」
 率直な問いを受けて、綾は言葉に詰まってしまった。
 自分の悩みを広哉や美保に話す決心は、まだついていない。
 ましてここは病院の前だ。
 誰に聞かれてしまうか分からない。
「えぇと、それは……あの……あうぅ……」
 困っていると、美保が助け舟を出してくれた。
「まあ、坊ちゃん。綾も疲れてるみたいですし、話の続きはお屋敷に戻ってからにしませんか?」
「あっ、そうだね。じゃあ、帰ろう」
 単純な話題転換だったが、広哉はあっさりすぎるくらいあっさりと、素直に賛成した。
「天然ねぇ……」
 美保のため息は小さ過ぎて誰にも聞こえなかった。



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