港としても重要な役割を持つ湾岸基地は、多数の強力な火器が防衛用に配備されている。
 だが、それらは全て既存の兵器を相手と想定したものであり、”異形”のような常識のおよばない敵を迎え撃つには役者不足と言わざるをえない。
 事実、設置されたミサイル砲、機銃は絶え間なく火を吹いていたが、岩をかき集めて巨大な人型にしたような姿の"異形"にはまるで通用していなかった。
 数台のサーチライトに照らされる中、幾つもの爆発を受けとめながら、"異形"は一歩一歩前進してくる。
 そして、さしのべるように片手を基地へと向けた。
 その手が突如分解し、岩の弾丸となって、基地の武装へ降り注いだ。
 立て続けに砲塔が破壊され、誘爆していく。
「第三ミサイルポッド、破壊されました!」
「Bポイントの自動機銃、完全に沈黙!」
 指令室では、オペレーター達が悲鳴混じりの報告をする。
 たった一回の反撃で、基地の防衛システムの何割かは使い物にならなくなってしまった。
 立ち昇る黒煙と火炎の中、飛び散った岩が再度集まり、元通り手を形作る。
「くっ、くっ……くそぉっ! 化け物が!」
 所長は吐き捨てた。
 ここまで圧倒的な力の差を見せつけられると、恐怖より先に、理不尽さな強さへ怒りに似たものを覚える。
「所長、我々の装備では勝ち目が……!」
「分かってるっ! だが、何としても援軍が来るまで持ち堪えるんだ!」
「所長!」
 今度叫んだのはレーダーに向かっていた部下だ。
 その切羽詰った声色は、とても援軍を確認したようには聞こえない。
「今度は何だ!?」
「じっ、十二時の方向の空に歪みが……!」
「歪みだと!? これ以上、何が起こるっていうんだ!」
 答えはすぐに出た。
 空間をたわませ、鷹に似た戦闘機が出現したのだ。
「あれは!? この間の!」
 そう、烈風神であった。



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