さて、日と場所は変わって、篠崎家の屋敷。
 一日の仕事を終えた佐倉綾は、自室でメイド服から楽な服に着替えようとしていた。
 しかしエプロンを外したところで、部屋のドアをノックされ、ボタンに掛けていた手を止める。
「はぁい」
 出てみると、早くも私服になった東雲美保が立っていた。
「綾、ちょっと話あるんだけど、いい?」
「うん? いいよ、入って。着替えるからちょっと待っててね」
 綾は友人を迎え入れた。
 美保はそのままベッドに腰掛け、綾もクローゼットに向かって着替えを再開する。
「綾」
 ブラジャーとパンティだけになったところで、美保が声をかけてきた。
「なに?」
 彼女に背を見せていたため、綾は首だけをそちらへ向ける。
「あんた、また胸大きくなった?」
「え……あ、うん……」
 綾の返事は歯切れが悪かった。
 この類の話題は苦手なのだ。
 しかし、美保は重ねて聞いてきた。
「いくつになったのよ」
「えっと……この間、ブラのサイズがEになって……」
「E?……はぁっ、もったないわよねぇ。それで恋人もいないんだから」
「……ぁっ……」
 元からほんのり染まっていた綾の顔が、真っ赤になった。
「たっ……確かにいないけどっ……いいもんっ。私、美保ちゃんみたいにエッチじゃないし!」
 プイッと綾はクローゼットに向き直る。
「ふっふ、綾は坊ちゃん命、だもんねぇ」
「あう……」
 美保はニンマリと笑いながら立ち上がった。
「よぉっし、エッチなあたしが、恋人いない綾のために頑張ってあげちゃおう」
「頑張る? え? きっ、きゃあ……っ!?」
 綾が悲鳴をあげてしまったのも無理はない。
 美保は後ろから両胸を鷲づかみにしてきたのだ。
 大きな膨らみを、ブラの上からフニフニともてあそぶ。
「う〜ん、揉み応えは充分ね」
「やっ……美保ちゃん……っ……下着の形が崩れちゃうよぉっ……!」
「気にしない、気にしない」
「気にするってばぁっ……ねぇっ……イタズラしないでっ……ぁんっ!」
「あ、エッチな声」
「ち、違うもんっ! やっ……耳に息を吹きかけないでぇっ」
「……ところでさ」
 胸をいじり続けながら、しかし美保は声のトーンを変えた。
「あんた、最近悩みとかある?」
「えっ……」
 綾は内心、ドキリとした。
 悩みはある。
 もちろん烈風神と"異形"の事だ。
 先日の戦い以来、"異形"は出現せず、烈風神の方からも接触は取ってこないが……。
 しかし、さすがにその事を相談するのはためらわれた。
 あまりに突飛で、とても信じてもらえるとは思えない。
 乗る時には裸という気恥ずかしさもある。
 結局、綾は嘘をついた。
「な、ないよ……悩みなんてっ……んっ!」
「本当に?」
「本当だよっ……だからもう……っ!」
「そう」
 綾の言葉に美保は手を止めた。
「ま、あんたが……そう言うならいいんだ」
「……ふう」
 綾は大きく息を吐いた。
 まだ胸がどきどきしている。
「美保ちゃん……どうして急にこんな……」
「ん? いやほら、こっちも照れがあってさ。悩みがあるなら言ってごらん、相談にのるよ、なんてあたしのキャラクターじゃないしね。どうやって話題をふるか、色々と考えて……」
 だが、そこで美保はさっきと同じ笑みを浮かべた。
「にしても、あんたの胸って気持ちいいね。また揉んじゃうかも」
「そんなのダメ! あうう……」
 その時だった。
 綾の頭に烈風神の声が響いた。
――綾、"異形"が現れた。場所は千葉沿岸にあるIDMの施設だ――



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