「綾っ、あれ見て! 昨日のロボットが出てるよ!」
「あ……そっ、そですね……」
 買い物の途中、並んで歩く篠崎広哉の指差す先を見て、佐倉綾は童顔を引きらせた。
 綾は十七歳、篠崎家に仕えるメイドである。
 一方の広哉は小学校六年生で、篠崎家の一人息子。
 二人で買い物というこのシチュエーションは、綾にとって嬉しいもののはずだ。
 いつもならば。
 だが、今回に限ってはそうもいかなかった。
 二人が見たのは、ビルの壁面に付けられた大型モニターであり、そこには怪物と戦うロボットが映し出されている。
 流れているのは子供番組ではない。
 れっきとしたニュースだ。
 その、現実であるという点に、綾は困っている。
「…………あうぅ……」
「どうしたの?」
 綾の様子がおかしい事に気付き、広哉は心配そうに彼女を見上げてきた。
「あ、あはは……はぁ……何でもないですよぉ」
「そう?」
「はいっ、私は大丈夫です!」
 わざとらしいほど勢い込んで答えつつ、内心、綾はため息をついていた。
(あのロボットに乗ってたのが私です、なんてさすがに言えないよ……。それに……これから私が何をすればいいのかも分らないし……恥ずかしいし……)
 ……話は一日前に遡る。



NEXT