序章:予兆 〜Warning〜



ネオンの光が煌く繁華街……人々が行き交う中を、一人の女性が人並みに身を任せるように歩いている。

漆黒のコートを羽織り、銀の髪を靡かせる女性は、無言のまま歩みを進めている。

女性の名は、ルイン……かつて、ゼノンガイオス・マルドゥークと激戦を繰り広げたSWORDIONの一員であった女性だ。

戦いの終結後、彼女は自身の贖罪のために地球を旅していた。

歩んでいると……閉じていた瞳が微かに開かれ、流し眼で後方を見やる……歩みを止め、視線を向けるのは、賑やかで華やかな表通りとは打って変わった横道の路地……先はどうやら、港に面しているようだが………

ルイン(付けられている……)

微かに感じる気配…戦士としての感覚を持つ彼女はそれを感じ取り、意を決して路地裏に足を踏み入れた。




路地を抜け、人気のない港区の倉庫に入り込む……全周囲に感覚を張り巡らせ、気配を探りながら、ゆっくりと歩みを止めると……呟いた。

ルイン「出てこい……誰かは知らないが、わざわざ襲わせやすいように人気のない所まで来てやったんだ」

挑発するような口調で呟くと、次の瞬間、周囲に影がいくつも姿を見せる。

人の姿のようにもみえるが……全身を深い毛で覆われ、爪先と手先には鋭い爪と、頭は獣のように獰猛な唸り声を発している。

ルインは知らなかったが………アルペロスと呼ばれる、トリニティの下級魔人の一つだ。

瞬時に戦闘状態に入り、感覚を研ぎ澄ませ……周囲の気配を探る。

ルイン(数は……5)

コートの裏の刀の柄に手を掛けたと同時に、アルベロスが一斉に襲い掛かった。

爪がルインの立っていた場所に集中して突き立てられ、コンクリートの砕ける音が響く。

だが、そこにルインの粉々になった身体などなく、ただ抉られたコンクリートがあるだけだ。

アルベロス達は周囲を探る。

港の街灯の上に着地したルインに気付き、唸りながら睨む。

刹那、弾かれたように2体が跳躍する……対し、ルインも足場を蹴り、降下すると同時に刀を抜き、刃を煌かせる。

交錯し……離れた瞬間、アルベロス2体の身体が斬り裂かれ、崩れ落ちる。

着地した瞬間を狙って、2体が飛び掛るが、ルインは足元に転がっていた箱を蹴り上げた。

それは見事に一体に衝突し……残りの一体に向かって、刃を突き出した。

顔をグシャッと抉り、刃が貫通する……飛び散った血が顔に降り掛かるが、それを振り落とすように突き刺したアルベロスを残りの二体に向かって投げ飛ばす。

一体が正面衝突し、弾き飛ばされる……残った一体が爪を立てて上空から迫るが、ルインはカウンターの如く刀を突き刺した。

次の瞬間…鈍い音が響く………アルベロスの爪がルインの頬を掠り、朱の一線が走る……だが、ルインの刀はアルベロスの身体を貫通し、その場に崩れた。

ルインは無言のまま先程弾き飛ばしたアルベロスのもとまで歩み寄ると、硬直しているアルベロスの身体をドカッと踏みつけた。

刀の切っ先を突きつけ、低い声で問う。

ルイン「お前達……何者だ? ゼノンガイオスか…それとも、マルドゥークの残党か……?」

アルベロス『ギギギ……勇……者……マッサ……トリ……ニティ………』

ルイン(トリニティ……?)

疑念を憶えるルインの前でアルベロスが苦悶の声を漏らし、その場に事切れた。

ルインは何の感慨も抱かず、刀を鞘へと収め……踵を返す。

そのまま港の海に面した場所に立つと……夜空を見上げながら眼を細めた。

ルイン(また……何かが起ころうとしているのか………)

ルインの予感は、後に……いや…既に当たっているといって正しかった………

決然とした面持ちでコートを振り被り、ルインは再び戦いに身を委ねようとしていた………





場所を変え……日本……竜ノ宮神宮…………

本殿の中心に位置する場所に燃え盛る炎……その前に静かに瞑目する少女……炎が不規則に揺らめき、少女:竜ノ宮綾奈はゆっくりと眼を開ける。

瞳に映る炎に、ぼやけた映像が浮かぶ……闇のなかに存在せし5つの欠片……それが一つになり……巨大な影が見える………浮かび上がる地球……だが、その蒼い輝きが黒ずんだ影に覆われていく。

綾奈「………っ」

表情を沈ませていた綾奈が、何かに気付いたようにハッと後ろを振り向く。

本殿の外……扉を開け、境内内を見渡す綾奈………夜の闇に包まれる中で、綾奈は感じた気配を探して周囲を見渡す。

すると……真正面に何時の間にか、人影が佇んでいた………暗く、顔がはっきりと見えないが、茶の混じった黒髪の女性のようだ。

凝視する綾奈の前で……女性は無言のまま佇む。

綾奈「………貴方は…誰……?」

存在をはっきりと掴めない…こんな事は初めてで、綾奈は戸惑う……

???「災いが…大いなる災いが迫っています………あらゆる次元を巻き込んで……」

女性が静かに囁く……

???「……そして…それを防ぐために……多くの勇気ある者達が集います………」

女性は腕を翳すと、綾奈の後方の本殿の炎が一際大きく燃え上がり、煌いた。

一瞬、そちらに気を取られた綾奈がハッと視線を戻すと、そこにはもう女性の姿はなかった……困惑した表情のまま、綾奈は今一度炎を見やる。

綾奈「また……戦いが始まる……多くの世界を巻き込んで………」

確信めいた予言のような言葉を呟き、綾奈は本殿から夜空を見上げる。



水瀬研究所の屋上でお風呂上がりの火照りを冷まそうと出ていた詩織……滴る水滴を払いながら、胸元のペンダントを握り締める。

詩織「貴方は今も…戦ってるんだよね………」

この星空の向こうにいる大切な者の顔を思い浮かべ、詩織は微笑を浮かべる。

リーファ「詩織、いくら温かくても風邪引くよ」

その時、ドアから顔を出したリーファが声を掛けると、詩織は笑顔で頷き、家内へと入ろうと歩み寄る。

今一度……振り向きながら空を仰ぐ………




一筋の流星が夜空を過ぎる……それは、新たな戦いを告げているかのようであった………




オリジナルブレイブサーガ第3部
第3話 剣聖再び

 

 

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