とある、空洞らしき場所――――

そこにクロウデスはいた。

「カ…カカ……カーッカッカッカッ!!ついに…ついに復活だぜぇ!!」

その者の目の前でクロウデスは大きな声で喜んでいた。

獣の顔を持つ者の目の前で――――

そして、それを空洞の外で見つめる者がいた。

「やれやれ……私が目を離した隙に厄介なことになってるようですね」

その者はそれだけを言い残し消える。

初めからそこに存在しなかったように……自分が存在した証すらも消して――――

 

 

 

熱血勇者、再び参上!

 

 

 

轟波の中に再現された自分の部屋に過ごすこと数日――――

今のところ、敵と思われる者達が現れないためにジンは静かに過ごすことが出来た。

が、逆にサイガ達は慌しかった。なにかをしきりに話し合っていたのだ。

最初はとても大事なことなのだろうとジンは思い、邪魔をしないようにと話しかけずにいた。

けど、それが数日も続くとさすがに気になって仕方がなかった。

「ねぇ、どうかしたの?」

思い切ってジンは聞いてみることにした。そのジンの疑問に答えたのはサイガ。

『うむ……実はこの世界で大きな悪意と……悪意とは別の2つの大きな力を感じるのだ』

「大きな悪意と……2つの大きな力?」

『うむ』

問い掛けたジンに答えた後、サイガはなにかを見上げるように顔を上げた。

『悪意の方はただ大きいとしか言えない。そして、悪意とは別の力の内の1つは熱く燃え上がるような力。もう1つは……』

そこまで言い掛け、サイガは口を止めてしまう。それにジンは首をかしげていた。

しばらく悩んだ末、サイガはジンを見つめるようにして、口を開く。

『もう1つは……善と悪…どちらでもない巨大すぎる力だ』

「善でも悪でもない力?」

サイガの言葉の意味をジンは理解することは出来なかった。それがこの世界――――

いや、すべての世界において重要な意味をなすことなどに気付くことすら出来なかった。

一方――――

とあるビルの屋上に1人の青年がいた。白のTシャツにジーンズとGジャンを着た、見た目は若すぎる青年。

その青年がある一点だけを見つめていたが、その一点には何もなかった。

一般の人がいる以外は――――

「さすがは天災機甲……といったところでしょうかね?これからはもっと上手に隠れないと」

その青年はそんなことをつぶやいたと思った時、すでにその場にはいなくなっていた。

まるで最初からその場にいなかったかのように――――その青年はいなくなっていた。

 

 

その頃、拓也は自分の部屋で外の景色を見ながら、数日前のことを思い出していた。

そう、ジンガイオーのことを思い出していたのだ。

ジンガイオーが何者なのか拓也はまだ知らない。でも、いずれ知ることになるであろうことを拓也はうすうす感じていた。

「生まれ変わる前なら、簡単にわかったんだけどな」

そんなことをつぶやきながらため息を吐く。昔を思い出して、少し自己嫌悪になったからだ。

そんな自己嫌悪をすぐに振り払い、拓也は立ち上がる。

何かが始まった。それがなんなのかはまだわからないが、いずれそれは大きくなっていくだろう。

拓也にそんな予感があった。となれば――――

「ま、またそんな日が来るとはわかってたし、今さら悩むもんでもないか」

それがわかっていたからこそ、拓也の気持ちの切り替えは早かった。

いつもそうだった。ずっと昔から、このようなことがあったからこそ、拓也は順応出来たのだ。

そう……ずっと……遥か昔から――――

「ふ〜……昔なんざ思い出すよりは、今をどうするかに専念した方が良さそうだ」

昔を懐かしもうと思い始めた気持ちを切り替え、拓也は部屋を出ようとドアへと向かう。

その時ドアが開き、1人の少女が入ってきた。見た目は拓也よりもお姉さんといった感じの少女だ。

だが、少女は拓也とは血の繋がりはない。いや、もっと根の深い所の繋がりはあるが、今はそれを話す場ではない。

少女は拓也の姿を見てため息を吐いていた。まるで無くしたものを見つけてほっとするような感じで。

「ここにいたんだ。なにしてたの?」

「ああ、あのロボットのことをね」

「あのロボット?ああ、この間の」

拓也との話で少女は数日前に現れたロボットのことを思い出す。

思い出してから、ふと拓也に視線を向けた。まるでなにかに怯えるように。

「また、戦いが始まっちゃうのかな?」

「心配なのか?ミエ?」

ふと漏らしたことに問い掛けられ、ミエと呼ばれた少女は静かにうなずいた。

「だって……もしかしたら、また、私のせいで…」

「それはないだろ?それならシンジがなにかを言ってくるよ」

ミエの疑問を即座に否定してから、拓也は窓の外の景色に顔を向けた。

外の景色を見つめる拓也の視線は子供とは思えぬものだった。まるでなにかを見透かすような――――

「それより気になるのはシンジからなにも無いことだ。あいつはとぼけていても、抜け目ない。

それなのに何の連絡もないということは……」

そこまで言い掛け、拓也は口を止めた。先は言わなくともミエにはわかっていたからだ。

すなわち――――

(なにか、トラブルが起きたか……そんなところだろうが…)

なんらかのトラブルが起きる。それは考えられたが、拓也にはもっと別な心配事があった。

それを考えていた時、突如街から爆発音が響く。

それに気付き、拓也とミエは爆発音が聞こえてきた方向を見てみると、その方角の先に煙が立ち上がるのが見えた。

また来たか――――

拓也がそれを感じていた時、拓也の左手首に付けられた赤い宝石が埋め込まれたブレスから発信音が響く。

「はい、拓也」

ブレスのボタンを押し返事をする拓也。その返事に答えたのは―――

「わしじゃ。この間のロボットが出よった。じゃが、しばらく様子を見るぞ。わしらは奴らに対してなんの情報もないからな」

拓也の祖父である大二郎は一方的にそんなことをブレスの通信機能越しに告げてきた。

が、拓也の返事は決まっていた。すでにそうだと決めていたのだ。

「悪いけど、すぐに出るよ」

「なに?!」

「あいにく、長々と待っていられるほど、俺の気は長くないんでね」

「こら、待たんか!!まだ、相手がなにかすら―――――」

拓也の返事を聞いて慌てる大二郎だったが、拓也は一方的に通信を切ってしまう。

このやりとりを見て、ミエはくすくすと笑っていたが、すぐに心配そうな顔になっていた。

「行くんだ……やっぱり…」

「ああ、待っているのは性に合わないんでね」

ミエにそう答えながら、拓也は窓を開けた。新たな戦いへと飛び出すために。

拓也は窓から飛び出した。

ファイヤァーチェーンジ!!

窓から飛び出すと同時に拓也は叫んだ。その叫びに呼応するかのように、拓也が付けていたブレスから炎が噴出す。

噴出した炎は拓也を包むと、拓也の体に変化が起きた。

手が足が伸び――――そして、背が伸びて青年くらいの姿になると、

拓也を包んでいた炎が拓也の体に纏われていき、アーマーを形成していく。

やがて、炎が消えると青年の姿となり、赤を基調に白いラインが入ったアーマーを装着した拓也は空へと向かい飛び去っていった。

ミエはただ、それを見届けるしか出来なかった。なぜなら――――

「がんばってね。タクヤ――――」

その名をつぶやきながら、ミエは拓也が飛び去って行った空を見つめていた。

お隣同士で幼馴染――――だからという理由で心配しているのではない。

前世からの因縁。これが今でも続いているのではないか……それがミエの今一番心配していることだった。

 

 

一方、ここ司令室では――――

「こりゃ待たんか拓也!!」

拓也の祖父、大二郎が拓也を必死に止めようと呼び掛けていたが……やがて、拓也の方から通信を切ってしまう。

これには大二郎は呼び掛けを止め、イスに座り直すしか出来なかった。

いつか、拓也は再び戦いの場へと出て行くだろう。大二郎はそんな予感をいつも感じていた。

そして、その予感は的中した。自分が思ったよりも早くに―――――

となれば、今自分がするべきことはなにか?それはすでに決まっていた。

それは―――――

「どうするの?おじいちゃん……」

心配そうに1人の女性が大二郎に問い掛けてみた。そんな女性の疑問に大二郎はため息を吐いてから顔を上げる。

すでに決まったことなのだ。迷う必要はない。必要がないはずなのに――――

「様子を見る。残ったみんなは待機しとるんじゃ」

「そんな……それじゃ拓也君は――――」

「言いたいことはわかる。わかっておるのだ。だが……」

大二郎の決定に慌てだす女性をなだめながら大二郎は話す。

が、そこで大二郎の口が止まる。わかっているはずなのに……

「なぜかはわからぬが……今回は拓也に任せるしかないような気がしてならんのじゃ」

今はそうとしか、大二郎は答えれなかった。

わかっているはずなのにそこだけがわからない。それが大二郎を戸惑わせている疑問だった。

この疑問に答えはないのか?今の大二郎にその答えを見つける術はなかった。

 

 

一方、ジン達は異変を察知し、外へと出ていた。

そして、巨体となったサイガ達は敵の姿を確認すべく辺りを見回す。

「間違いないの、サイガ?」

『うむ、この気配……あやつだ!』

自分の足元にいるジンに向かいうなずいてから、サイガは再び辺りを見回す。

不意に感じられた覚えのある悪意。それを感じたために天災機甲達は外へと出たのだ。

「クワァ〜カッカッカッカッ!!」

上空から聞き覚えのある声が響いてくる。やがて、その声の主が見えてきた。クロウデスである。

クロウデスはサイガ達から少し離れた上空に舞い降り、サイガ達を睨みつけ――――

「カーッカッカッカッ!のこのこやられに来やがったか」

「なに?ん?あれは……」

クロウデスの挑発の意味を問いただそうとサイガ顔を上げた時、あることに気付いた。

上空に留まるクロウデスの下、ビルの屋上に何者かがいることに気付いたのだ。

「クロウデス。こいつらがお前が言っていた者達か?」

「カー!そうです」

ビルの屋上にいる何者かの問い掛けに、クロウデスは律儀に答えていた。

それを見ていたサイガがなにかに気付き、体をこわばらせる。

『ジン…済まぬが、激甚パワー開放の心構えを』

「えっ?」

サイガの言葉にジンは驚く。一方のサイガはビルの屋上にいる者から目を離そうとはしなかった。

なぜなら――――

『先に話した悪意の主だが、直々のお出ましらしいのでな』

「えぇっ!?」

サイガの言葉はジンを驚かせることとなった。それがなにを意味するかはジンには良くわからない。

だが、危険であることには間違いはなかった。

そんな危機感を感じながら、ジンはビルの屋上にいる者の姿を見てみる。

ビルの屋上にいた者――――それは狼の顔を持つ人だった。

いや、人というよりは――――

「お前らがクロウデスの言っていた勇者か……俺は天魔将の1人『疾風のディアス』

お前らに直接の恨みは無いが……ここで死んでもらうぞ」

『……勇者?』

ビルの屋上にいた者――――ディアスと名乗った者の話にサイガは一瞬、理解することが出来なかった。

が、サイガが自分達のこと勇者と呼ばれたことに気づいた時、ディアスはビルから突然飛び降りていた。

「え?」

『あれは』

突然のことにジンは何が起きたかわからなかった。しかし、サイガはあることに気付き、ディアスを見つめていた。

ディアスの力が増大していたことに気付いたのだ。

その間にディアスの体に変化が現れる。体が大きくなり、体付きが獣のようになっていく。

やがて、ディアスは轟音と衝撃と共に地面に降り立った。

その体を巨体にし、四本足で地に立つ獣の姿となり、ディアスはサイガ達の前に立ちはだかる。

「お……大きくなった」

『ジン、我らも行くぞ』

「う…うん!」

巨体となったディアスに驚くジンにサイガが声を掛ける。

その声に勇気付けられたジンが答えた時、天災機甲達とジンが1つとなる。

そして、1つとなり巨大な拳を打ち合わせ火花と稲妻が散る中――――

 

『激甚来臨!

ジン・ガイ・オォーーーーーーーーーーーーッ!!!!』

 

ジンガイオーはすべてを震わせるような声を上げた。

一方、一部始終を見ていたディアスは――――

『合体か……それがどれ程までの力なのか見せてもらおう』

低く唸りながらそんなことをつぶやいた……次の瞬間、ディアスは動き出していた。

『ぐっ』

「うわ!?」

突如、目の前に現れたディアスの爪から逃れられず、ジンガイオーはディアスの爪を喰らいよろめき、それにジンが驚いてしまう。

不意を突かれたこともあるが、ディアスの動きは速すぎた。その速さにジンガイオーは追い付けない。

「クワァーッカッカッカッ!!いいぞいいぞぉ!!」

傍観を決め込んでいたクロウデスが喜びながら観戦している。

状況は明らかにジンガイオーに不利だった。ディアスの実力だけではない。

もう1つの要因がジンガイオーのピンチの引き金となっていた。

『く…ぐぅ…』

そのためにジンガイオーはディアスの爪に体を何度も突かれ斬られてしまう。

そして、ディアスの猛攻にジンガイオーは膝を付いてしまった。

それを見てか、ディアスが動きを止め、ジンガイオーを見つめる。

『く…っ』

「ジンガイオー!?」

『世界の疲弊は予想より深刻らしい。力が漲る程まで高まらぬ』

ジンガイオーが膝を付いてしまったこととジンガイオーの言葉にジンは驚く。

ジンガイオーの言葉は偽りではない。ここは自分達がいた世界とは違うのだ。

それゆえに思うように力が出せない。それが不利という状況の要因の1つとなっていた。

「そんな!?じ…じゃあ僕、もっと頑張ってパワーを送るように頑張るから!!」

『それでは……いや、我も節約と早期決着に努めるゆえ、今しばらくは、頼む』

「うん!行くよ!!」

それでもジンガイオーを信じ、ジンはジンガイオーの力を高めることに努力した。それに応えようとジンガイオーは立ち上がる。

それを見ていたディアスは低く唸りながら、獲物を定めるような目となり――――

『なかなか、がんばるが……我が牙で最後にしてやる』

その言葉を口にした瞬間、ディアスが動き出す。やはり、ディアスの動きは速い。

逃れられない。そう感じたジンガイオーが腕を上げようとした。その瞬間(とき)――――

ジュエルブラスタァ――――!!

『くぅ!?』

一条の光がディアスに突き刺さり、ディアスの体を爆発と共によろめかせた。

突然のことにジンガイオーへ向かうことが出来ず、ディアスはジンガイオーの横をすり抜けて光が飛んできた方向を睨む。

一方、ジンガイオーとジンは突然のことに戸惑いながらも、ディアスが睨む先に視線を向けた。

ディアスが睨む先にいたのは人だった。人が鋼の翼を広げ宙に佇んでいたのだ。

『何者だ?邪魔をするのは?』

「何者……だって?じゃあ、答えてやるよ。俺は――――

熱血勇者ファイヤーガーン!ただいま、ここに参上!!

ディアスの問いにその者は―――ファイヤーガーンはポーズをつけ、叫ぶように答える。

その叫びを聞いていたジンはあまりのことに呆然としてしまっていたが……

「熱血……勇者?」

『熱く燃え上がるような力……それがあの者か』

呆然とするジンに対し、ジンガイオーはファイヤーガーンから感じられる力がこの世界に来てから感じられる力だと気付いた。

「ッカー!!熱血勇者だと!?ふざけてんのカー!!」

「思いっきり本気だよ!!

ウイングスライサァー!!

「ギャアー!!?」

いきなりのファイヤーガーンの登場に怒るクロウデスにファイヤーガーンは鋼の翼を向け、刃となった無数の羽を発射する。

その刃の羽にあちこち斬られ、クロウデスは悲鳴を上げた。

そんなクロウデスを無視し、ファイヤーガーンはディアスを睨む。

同じようにディアスもファイヤーガーンを睨んでいた。

『熱血勇者か……その力、どれ程のものか見せてもらおうか?』

「へ、言われなくたって見せてやらぁ!ガァーン!!

『おおっ!!』

ディアスの挑発に乗るようにファイヤーガーンが叫んだ時、胸のジュエルから光が掛け声と共に飛び出した。

その光がスポーツカーとなり変形を開始する。

フロント部分が足となり、リア部分が左右に分かれ両腕となり、立ち上がりロボット形態となる。

ロボットとなると胸が縦に回転してライオンの顔が現れ、そこへ向かいファイヤーガーンが飛び込んでいく。

「とぉ!!」

炎となったファイヤーガーンがロボットの胸のライオンの口に飛び込むと、ロボットの目が輝き両肩に炎が浮かび上がった。

融合!ガァーン!!

ロボットと1つとなり、ファイヤーガーン――――ガーンはポーズをつけて叫ぶ。

それを見ていたジンは呆然とするばかりだが、それで終わりではなかった。

ダッシュカイザァ――――!!

ガーンの叫びと共にライオンの口から光が放たれ、彼方へと飛んでいく。

そのすぐ後に巨大なトレーラーが彼方からガーンへと向かい走ってきた。

そして、トレーラーは走りながら変形を始めた。

フロント部分が左右に分かれサイドに展開して肩と腕となり、リア部分が伸びて両足となる。

その状態になってからトレーラーは噴射を使いながら、ウイングを展開し上半身を横に回転させながら立ち上がる。

立ち上がると同時に上半身の回転が止まり、両腕を下ろすと胸のカバーが開く。

『とぉ!!』

そこへ向かいガーンが飛び出すと、両腕が収納され両足が背中に折りたたまれ――――

その状態で変形したトレーラーのカバーが開いた胸へとドッキングする。

ドッキングのすぐ後に胸のカバーが閉じると胸に赤い鬣を持つライオンの顔が現れ、

ガーンの顔にメットが装着されてマスクがされると両手がせり出し、拳を打ち合わせた。

熱血合体!ガァ――ンカイザァァァ――――!!

合体を完了し、ガーンカイザーは叫びと共にポーズをつけた。

『お前も合体か……ならば見せてもらおう。その合体の力をな』

ガーンカイザーの合体を見届けたディアスが再び動いた。

やはり、ディアスの動きは速い。

その速さに追い付けないのか、ガーンカイザーはディアスの爪を次々と受けていた。

「ああ…あのままじゃ……」

『いや、待て』

「え?」

ディアスの攻撃を受け続けるガーンカイザーを見て心配するジンに対し、ジンガイオーはあることに気付く。

ガーンカイザーが動じていないことにだ。まるでなにかを待つかのようにじっとなにかを見据えている。

『動けぬか。ならば、すぐにとどめを刺してやる』

攻め続けるディアスは動かぬガーンカイザーを見て、とどめを刺すためにガーンカイザーのある部分に狙いを定める。

そして、ディアスがそこを狙うためにガーンカイザーに駆け出した時、ガーンカイザーが動いた。

『なに!!?』

「ッカー!?」

「嘘…」

『なんと…』

そのことにディアスが…クロウデスが…ジンが…ジンガイオーが驚いた。

狙いを定め襲い掛かるディアスをガーンカイザーが捕まえたのだ。

このことにディアスが一番驚いていた。まさか、自分が捕まるとは思ってもいなかったのだ。

『く…なぜ……』

『てめぇ、さっきあいつを倒そうとした時に首に噛み付こうとしたろ?

俺にも同じことするだろうと踏んでそれを狙ってたんだが……どうやら、見事にドンピシャだったな』

驚きながらも必死に離れようとするディアスを捕まえたまま話すガーンカイザー。

そんなガーンカイザーにジンガイオーは感心していた。

あの時―――自分を助けた時、ガーンカイザーはディアスの特性を見抜いていた。

敵の特性を見抜く眼力。好機を待つ辛抱強さ。そして、好機を見逃さずすぐに行動に入る行動力。

それらはすぐに身につくものではない。経験があったからこそ出来るものなのだ。

もし、ガーンカイザーが名乗っていた通り勇者であるならば、それこそいくつもの戦いを経験してきた勇者に違いない。

そんなことを思いながらジンガイオーはガーンカイザーを見つめていた。

『てめぇは確かに速い。速いがな……速いだけじゃ、俺の熱い思いは消せやしねぇんだよ!!』

『ぐおぉぉぉ!!?』

叫びながらガーンカイザーはディアスを殴り飛ばす。

それに堪らず悲鳴を上げながらディアスは地面を滑るように吹っ飛んでいき、ビルへと激突していく。

その間もガーンカイザーは動いていた。両腕を胸のライオンの前で構え――――

ガァ――ンフレアァ――――!!

『ぐわぁ!!?』

掛け声と共にガーンカイザーは胸のライオンの口から炎を放つ。

その炎が直撃し、ディアスは悲鳴と爆発と共に宙に舞い、地面に激突した。

「ッカー!!?やばいじゃん!?ええい、こうなりゃ……

出てこい……メギフォルテ!!

ディアスの予想だにしない苦戦に頭を抱えて狼狽するクロウデス。

混乱しながらもディアスの手助けをするためにメギフォルテを呼び出した。

呼び出されたメギフォルテはビルを突き破ってガーンカイザーに襲い掛かる。

『な!?』

完全に不意を突かれたものの、ガーンカイザーはなんとかメギフォルテの突撃を受け止めた。

しかし、受け止めることは出来たものの、完全に押される状態となってしまった。

今回のメギフォルテは完全体となって現れたのだ。

これは前回、メギフォルテへの融合の際、ジンガイオーに邪魔されたことを反省し、クロウデスが前もって用意していたのだ。

そして、完全体となって現れたメギフォルテはガーンカイザーを上回る大きさで襲い掛かってきた。

いかにガーンカイザーが技と力に優れていたとしても、この状態を打開するのは容易ではない。

『く…クロウデスめ……余計なことを……』

クロウデスのやったことに対しディアスは呻くものの、ガーンカイザーがメギフォルテに苦戦する間に立ち上がろうとしていた。

『く……なろぉ…』

「カーッカカカ!!いいぞいいぞ!そのままやっちまえ〜!!」

そして、メギフォルテに押されていくガーンカイザーを見て大喜びするクロウデス。

(このまま行けばディアス様が復活して、あの生意気な勇者野郎を倒せるぜぇ!)

そんな良からぬことをクロウデスは考えるが、世の中そんなに甘くはなかった。

『させん!』

ディアスよりも早く復活したジンガイオーがメギフォルテへと突進する。

そのジンガイオーの突進をメギフォルテはまともに受け、宙を舞った。

宙を舞う、メギフォルテが向かった先は――――

『ぐぉ!?』

今、立ち上がろうとしていたディアスに激突する。

「うっぎゃあ〜!!?やっばぁー!!?」

まったくの予想外のことにクロウデスは頭を抱え悲鳴を上げる。

その間にガーンカイザーは体勢を立て直し、ジンガイオーに向け親指を立てていた。

『サンキュー。助かったぜ』

『いや、その前に我が助けられたのだ。これくらいはせぬとな』

『なるほどね』

礼を言うガーンカイザーに話すジンガイオーの言葉に、ガーンカイザーは思わず笑いそうになる。

しかし、すぐにディアスに向き直した。ディアスはメギ・フォルテに潰された形で倒れており、未だに立ち上がることは出来てはいない。

この隙をガーンカイザーは見逃しはしなかった。

ガァーンシィ―――ルド!!

叫びと共にガーンカイザーの左腕にシールドが装着される。

その直後、ガーンカイザーの右足のサイドカバーから剣が飛び出し、その剣を右手でつかむとシールドへと収めた。

『おおおおおおおお……』

ガーンカイザーが吼えながらシールドから剣を引き抜くと、激しい炎に包まれながら刀身が一回り大きくなり、柄に新たな装飾が施された剣となっていた。

『おおおおおおおおおお!!』

剣をシールドから引き抜いた後シールドを前に、剣を後ろに構えながらスラスターを使い、ガーンカイザーは吼えながらダッシュする。

そして、ディアスとメギ・フォルテの手前で天高く舞い上がり――――

ガァーンバァーニングゥースラァ―――ッシュ!!!

『おのれ』

ディアスとメギ・フォルテに向かい剣を振り落とそうとするガーンカイザー。

これに呻きながらもディアスはなんとか下敷きにされたメギフォルテから抜け出し跳び去ろうとした。

が――――

『ぐっ!?』

わずかにガーンカイザーの方が速く、ガーンカイザーの剣がディアスの胸をかすめた。

そのまま、ガーンカイザーの剣はメギフォルテを切り裂き、メギフォルテは炎に包まれ、爆発していく。

その爆発に目もくれず、ガーンカイザーはビルの屋上に跳び移ったディアスに視線を向ける。

『ち、逃したか……』

ガーンカイザーのその言葉は比喩でも冗談でもなく、本気で残念そうな……そう思わせるような声だった。

その言葉を聞いてか、ディアスのガーンカイザーを睨む目が険しくなる。

『ガーンカイザー……この傷の礼、必ずさせてもらうぞ』

「ッカー!!?待ってくださいよぉ!!?」

その言葉を残し、去っていくディアス。クロウデスが慌てて続いていくのを見届けると、ガーンカイザーは剣をシールドに収め――――

うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!?

ぐおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!?

シールドを高らかに上げ、胸のライオンと共に吼えたのだった。

 

 

「凄い……」

サイガ達天災機甲達と一緒にその光景を見て、ジンは感心していた。

ガーンカイザーの胸のライオンから放たれる柔らかな光が街を修復していったのだ。

やがて、街の修復が終わるとガーンカイザーの口からファイヤーガーンが飛び出し、ジンの目の前に降り立ってもとの姿へと戻った。

龍崎 拓也の姿へと――――

「え?子供……」

拓也の姿を見て、驚くジンだが――――

「誰が子供じゃああああ!!!??」

即座に絶叫する拓也。確かに拓也の背はジンよりも低い。低いが……

「ご……ごめんなさい……あの……その…」

「ふ、14になるのにどうせ俺の背は低いさ……あははは……」

言ってはならないことをいってしまったと思い謝るジンだが、拓也は落ち込んだらしく放心状態になっている。

「まったく、気にしてること言われたからって、こんな所で落ち込まないでね」

「ん?ミエ……」

ジンが見知らぬ少女――――ミエの声に拓也が正気に返る。

そんな拓也を見てか、ミエはやれやれといった顔をしていた。

それから、笑顔でジンに笑顔を向ける。そんなミエの笑顔を見てか、ジンは赤くなっていたりしたが……

「ごめんなさいね。私は御崎 美江。それであっちが――――」

「龍崎 拓也。んで、お前さん達は?」

「ぼくは―――――」

「異世界の戦士、天災機甲。そして、その天災機甲と共に戦う少年。じゃあ、説明不足でしょうかね?」

ミエ、拓也の自己紹介の後、ジンが自分の自己紹介をしようとした時、そんな声が聞こえてきた。

これに天災機甲達とジンは辺りを見回すが、拓也は目を険しくして――――

「てめぇ……どこに行ってやがった?」

「あはは、少々忙しかったもので」

目を険しくしたまま問い掛ける拓也の声に答えながら、その者は拓也の背後から現れた。

白のTシャツに黒のジーンズに青のGジャン、ドライバーグローブをした青年が――――

『お主は何者だ?なぜ、我らのことを?』

「ま、そこら辺はわけあって話せないのでご勘弁を」

警戒をするような仕草をしながら問い掛けるサイガに青年はにこやかに答える。

まるでつかみ所のない青年にジンは戸惑うばかりだったが、拓也は違っていた。

「んで、なんでこうなってることを話さなかった?」

「いや、実はちょいと目を離してる隙に入り込まれちゃいまして、気付いたのが数日前という――――」

「アホかぁ――――!!!??」

訝しげに聞く拓也に青年がにこやかに答えるが、結果として拓也を激怒させることになった。

それを見て、ミエはやれやれと顔を振っている。

「てめぇ、管理者なら責任持って管理しろやぁ!!?」

「無茶言わないでくださいよぉ〜。私が管理する世界、ここだけじゃないんですから。

それに例えわかったとしても私は何も出来ませんよ。管理といっても、見届けるのが私のお仕事なんですから。

直接、手を出すのは厳禁。これがルールですからねぇ」

怒鳴る拓也に対し、青年はにこやかな態度を崩さずに話していた。

こんな青年の調子に拓也は疲れたように肩を落とし、ため息を吐いてしまう。

こんな青年と拓也のやりとりを、ジンは戸惑いながら見つめるしか出来ない。

逆に天災機甲達は驚くこととなった。

世界を管理する。それがどういう意味なのか……どれだけ、重要なのかをわかっていたからだ。

そんな者と話す拓也。それだけの者と対等に話す彼もまた只者ではない。サイガ達はそう思っていた。

そこでサイガはあることに気付く。青年の気配……それは――――

(善でも悪でもない力…)

そのことにサイガが気付いた時、青年がサイガに視線を向けた。

それに内心驚くが、すぐに青年は拓也に視線を向けていた。

今のは……サイガがそれを思っていた時だった。

異様な気配に全員が気付く。そして、全員が気配を感じる先に視線を向ける。

「あれは……」

「おやおや」

「ほぉ…」

驚くジンに対し、青年はにこやかに。拓也はなにかに関心するようにそれを見つめていた。

気配の先にあったもの。それは女性だった。空に浮かぶ女性……その女性が拓也達を見つめていた。

『あなた達は……神が存在することを知っていますか?』

「なに……これ?」

「拓也。これって…」

「たぶんな。こんなこと出来るなんざ、ただもんじゃない」

まるで自分の心に直接響いてくるような女性の声に驚くジン。

一方、何かを感じたミエが拓也に問い掛け、拓也は答えながら女性を見つめていた。

それを見て、サイガはふとあることに気付く。それは拓也の仕草だ。

変身し、ロボットと合体して戦うという時点でおかしいが……拓也には色々な疑問点があったのだ。

それがなんなのかは、サイガもよくはわかってはいない。ただ、言えるとすれば――――

(あの拓也という少年。本当に少年なのか?まるで――――)

まるで歴戦を経験してきた戦士のような……そんな雰囲気が拓也には感じられた。

しかし、今の状態ではそれを詳しく言い表せない。それがサイガを悩ませていた。

『あなた方は今、ここで見ている世界が現実と思っていませんか?

でも、もしそれがすべて虚構だとしたら……神の存在が現実だとしたらあなた方はどうしますか?』

「ふざけてんじゃねぇぞ」

女性の声を遮るように口を出したのは拓也だった。

「この世界が虚構だって?ふざけんな!今、この世界があるからこそ俺達はここにいる。

虚構だとか思って、否定してちゃ生きれねぇんだよ!!」

まるで女性の言葉を否定するかのように拓也は叫んだ。

そんな拓也をその場にいた全員が注目していた。そんな中でミエは心配そうに拓也を見つめている。

拓也の言葉の意味を痛いほどわかっていたから……だから、心配だった。

もし、今この世界を否定してしまったら……すべてを失ってしまうことを身をもって知っていたから……

「ちょっと失礼。あなたは神の存在を示唆しているようですが……そんなあなたは何者なのでしょうか?

もしかしたら、神に関係する者とか……だったりしません?」

拓也の前に出た青年の言葉に宙に浮かぶ女性は黙って青年を見つめている。

が、不意に女性が消えてしまった。

「あ、消えちゃった?」

「いえ、消えたというよりも――――」

「ああ、何かがあったような感じだったな」

女性が消えたことに驚くジンに対し、青年と拓也はそんなことを言い合う。

青年と拓也は女性に対し、なにかを感じ取っていたのだ。

青年は感覚で。拓也は昔の勘で、そのことを感じ取っていた。

しかし、ジンには青年と拓也の言葉の意図を理解することは出来なかった。

と、ここで青年が歩き出した。

「行くのか?」

「ええ。お仕事もありますし、あいつらのことも調べなければなりませんしね。それはともかくとして――――」

「え?」

拓也の言葉に答えながら青年が歩き続け――――不意に振り返った時、ジンはそれを見て驚いてしまう。

さっきいたはずの青年が消え、代わりに白いワンピースを着た女性が立っていたのだ。

その女性は美しく聡明で……ジンが思わず赤くなってしまうくらいに……

そうとしか言い表せないほどのその女性は美しかった。

しかし、ジンは女性の美しさに驚いたのではない。青年が消え、代わりに女性が現れたことに驚いていたのだ。

入れ替わったとか、青年が変身したとかではない。文字通り、青年は消えてしまった。

まるで最初からいなかったかのように……そして、代わりに女性が現れた。

一体なんなのか?それを理解することは、今のジンには出来なかった。

「お気をつけください。なにかが……巨大な何かが、押し寄せようとしています」

美しく透き通る声で話した後、女性は消えてしまう。先程の青年と同様、女性もまた消えてしまう。

やはり、最初から存在しなかったかのように……

ジンはもう呆然とするしか出来なかった。なにがなんだか、わからなかった。

一方、サイガは拓也を見つめていた。この拓也と先程の青年と女性。

その関係を疑っていたのだ。それにまるで色んなことを経験したかのように落ち着き、見通す拓也――――

ただの子供ではない。いや、子供ですらないのかもしれない。サイガは拓也のことをそう思い始めていた。

そんな中、拓也はため息を吐いてから、空を見上げる。

「巨大な何かねぇ……それがみんなを苦しめようってんなら、俺はそいつを潰すまでだよ」

拓也のそんな言葉にミエはくすくすと笑っていた。いつもの拓也に戻って安心から出た笑みだった。

と、拓也はあることに気付き、ジン達に振り返る。

「そういや、お前さん達の名前聞いてなかったな?」

そんなことを聞いてみる拓也の顔は少年のあどけない顔に戻っていた。

 

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